抄録
【はじめに】人工股関節置換術(以下,THA)術後において,入院期間の短縮が図られており,歩行を中心とした運動機能の長期的な視点での予測能力が求められている.これまでのTHA術後の歩行に関する報告は,健常者と比較した報告が多く,歩行開始時期からどのように回復するかを検討した報告は少ない.そこで今回,片側THA術後の歩行能力の回復過程を運動学的データと重心移動の効率性から検討したので報告する.
【対象】術前の健側下肢筋力は徒手筋力テストにてnormalであり,片側THAを施行された女性7名(年齢29~65歳)を対象とした.疾患の内訳は全て片側変形性股関節症である.対象者に本実験の趣旨と目的を詳細に説明し,研究の参加への同意を得た.
【方法】測定は術後4週と6ヶ月の2回行った.対象者に左右両側の肩峰,上前腸骨棘,大転子,膝関節外側上顆,足関節外果に反射マーカーを貼り付け,自由速度での歩行を行わせた.測定には床反力計(Bertec社製)と3次元動作解析装置(住友金属社製)を用い,歩行速度,体幹の側方移動幅,股・膝関節運動,重心移動を算出した.また,重心移動の効率性を表すパラメータとして,一歩行周期及び体重1kg・進行距離1m当りの重心の仕事量(以下,Wt/kg/m)を求めた.床反力計への接地とマーカー追跡が良好であった3データを分析対象とした.術後4週と6ヶ月の比較には対応のあるt検定,術側と健側の比較には対応のないt検定を用いた.統計学的有意水準は5%未満とした.
【結果及び考察】歩行速度は術後4週55.1±9.4(m/分),術後6ヶ月66.0±5.8(m/分)で有意に増加した(P<0.01).体幹の側方移動幅は術後4週7.75±2.80cm,術後6ヶ月5.53±2.10cmで有意に減少した(P<0.05).術後4週では術側の立脚後期での股関節伸展角度の減少,膝関節の二重膝作用の消失が認められた.術後6ヶ月において,最大股関節伸展角度は有意に増加し(P<0.01),膝関節運動は健側と同様のパターンを示したが,術側の最大股関節伸展角度は健側と比較して有意に低かった(P<0.01).重心移動に関しては,術後4週では術側への体重移動が不十分であったが,術後6ヶ月では対称性的なパターンを示した.また,Wt/kg/mは術後4週0.80±0.09(wt/kg/m),術後6ヶ月0.67±0.12(wt/kg/m)と有意に減少し(P<0.05),16%の改善を認めた.今回の対象症例は,年齢が比較的低く,片側例で,健側の筋力も良好であったため術後6ヶ月で良好な改善が得られたと考える.しかし,股関節伸展角度の減少に関しては6ヵ月後でも残存することが明らかとなった.今後の課題として,残存する股関節伸展制限に対する介入方法,両側例や年齢による回復過程への影響を検討していく必要性がある.