抄録
【目的】
現在,人工膝関節置換術は標準的な手術となり,そのデザインも多様である。また,同じデザインでも後十字靭帯の温存・置換が選択的に行われており,その優位性については議論が絶えない。一方,術後の理学療法においては,セメント使用と非使用におけるプロトコールの違いこそあれ,デザインやPCLの温存・置換といった術式による違いは明らかでない。そこで今回,術後の膝関節矢状面におけるlaxityに着目し,PCL温存型と置換型の経時的変化を比較することでPCL温存・置換を考慮した後療法の必要性を検討したので報告する。
【対象】
平成14年9月~15年10月の1年1ヶ月間に当院にてセメントレスおよびハイブリッド人工膝関節置換術を施行した症例26例27関節(平均年齢71.1±7.3)を対象とし,PCL温存群(15例)と置換群(12例)に分類した。機種は全例Depuy社のモービルベアリング型LCS人工膝関節システムを使用し,PCL温存・置換は無作為に行った。術後は翌日より全荷重を許可し,術後1週目まではダングリング等の自動関節運動を行い、2週以降は理学療法士による他動的関節可動域練習を行った。
【方法】
術後6ヶ月および1年時にニーアースロメーターKT2000を用いて,膝前後方向総変移量(total A-P displacement,以下TD)を測定した。測定は背臥位で膝屈曲30度及び75度を指定角度とし,133Nの前方引き出し力及び89Nの後方引き出し力を加えた。各3回ずつ測定を行い,その平均値の経時的変化を比較検討した。統計学的分析にはPaired t-検定を用いた。なお,測定誤差は0.5mm以内であった。
【結果】
術後6ヶ月時と1年時の平均は,温存群の30度TDで6.1±3.5mmと7.0±2.9mm,75度TDで6.8±3.6mmと7.6±2.9mmであった。また,置換群の30度TDで4.4±2.4mm と4.4±2.3mm,75度TDで5.9±2.4mmと7.3±2.8mmであった。両群ともに術後6ヶ月と術後1年の30TD及び75TDの間に有意差を認めなかった。(p>0.05)
【考察】
人工膝関節置換術後において前後方向のlaxityは,直接膝関節の可動域や痛みなどに影響を与えることは少ないと報告されているが,過剰な前後方向のlaxityは,長期的にはインサートの破壊などを引き起こし,人工関節の耐久性を低下させる危険性があるとも報告されている。今回の結果より,両群におけるTDの経時的変化に有意差を認めなかったことから,前後のlaxityに対しては,PCLの有無を考慮した後療法の必要性は少ないことが示唆された。しかし,PCL温存・置換のみならず,デザインによって生じる運動メカニズムの相違を考えると,それらを考慮した後療法について今後さらに検討することも必要と考える。