抄録
【はじめに】人工股関節全置換術(以下THA)の適応年齢は50歳以上であり,その筋力回復には年齢により影響を受ける可能性があると考えられる。しかし術後の筋力回復に対する年齢の影響を検討した報告は見当たらない。そこで本研究の目的はTHA術後6週間での筋力を年齢で比較し,年齢による筋力回復の違いを検討することである。
【対象と方法】対象は,当院でセメントレスTHAを施行した女性の変形性股関節症患者35名(平均年齢60.7±7.3歳)とし,60歳未満の群17人(平均年齢54.4±3.3 歳;以下A群)60歳以上の群18人(平均年齢66.6±4.2歳;以下B群)に分類した。手術進入法は両群とも前外側進入法であり,手術による大腿骨骨切りは無かった。筋力はHand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製)を用いて術側,非術側の股外転,伸展,屈曲,膝伸展,屈曲の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は術前と術後6週とした。測定肢位は股外転は仰臥位で股外転0°,股伸展は腹臥位で股伸展0°,股屈曲は端座位で股・膝屈曲90°,膝伸展および屈曲は端座位で膝屈曲90°とした。術後プロトコールは術後1日目よりベットサイドにて筋力増強運動,関節可動域運動を行い,5日目よりウォーカー歩行を開始した。また術直後より疼痛自制内での全荷重を許可した。筋力測定は1人の検査者が全被験者を2回繰り返し測定した。得られた筋力データは体重(Nm/kg)で正規化し,統計処理には対応のないt検定を使用した。有意水準は5%未満とした。
【結果】術側では全ての筋においてA群とB群の術前筋力に差が無かった。しかし術後6週経過時点でB群の股外転(0.73±0.11Nm/kg),股伸展(0.58±0.13Nm/kg),膝屈曲(0.57±0.14Nm/kg)がA群(股外転:0.84±017Nm/kg,股伸展:0.74±0.21Nm/kg, 膝屈曲:0.71±0.17 Nm/kg)より有意に低かった。これに対して非術側では術前術後を通じて,B群の股伸展,膝伸展,屈曲の筋力がA群より有意に低かった。また,両群とも術側の膝伸展筋力については術前の筋力まで回復していなかった。
【考察】本研究の結果はTHA術後の筋力の回復において年齢の影響を考慮する必要性を示唆している。また,非術側では術前筋力に年齢の影響が生じたにもかかわらず,術側の術前筋力では違いが生じなかった。これは疼痛等の要因により本来の筋力が発揮できなかったためであると推察される。また術後6週の時点で筋力が術前レベルまで回復していなかったのは膝伸展のみであり,年齢に関わらず膝伸展筋力の回復が遅れることが示された。