抄録
【はじめに】人工股関節置換術(以下THA)の術式の違いによって筋力を比較した研究は多いが,骨切術の併用による筋力回復への影響や術後早期の筋力の変化を調べたものは少ない。本研究の目的は, 術前,術後の股関節,膝関節筋力を測定し,術式の違いによる術後早期の筋力回復の差を検討することである。
【対象と方法】対象は当院で片側セメントレスTHAを施行した女性の変形性股関節症患者19人とし,術式によりA群(7人:大転子下斜め骨切術併用,後方進入法)とB群(12人:骨切り無し,前外側進入法)に分けた。A群は術後3週より10kg,4週で1/3荷重,5週で1/2荷重,以後骨癒合状態により増加させた。B群は術後5日目より疼痛自制内の全荷重であった。筋力増強・関節可動域運動は両群とも術後1日目から開始した。術側の股関節外転・伸展・屈曲,膝関節伸展及び屈曲の最大等尺性筋力をHand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製)を使用して,股関節外転は仰臥位で股外転0度,股関節伸展は腹臥位で股伸展0度,股関節屈曲は座位にて股・膝屈曲90度で測定した。膝関節の伸展と屈曲は座位にて膝屈曲90度で測定した。測定時期は術前,術後2,4,6週経過時点とした。筋力測定は2回繰り返し行い,測定は1人の検査者が全て行った。各関節中心から測定位置までの距離を計測し,得られた筋力データをトルクで表した後,体重(Nm/kg)で正規化した。さらに,術前比を求めた(術後トルク/術前トルク×100%)。統計的検定には,群間比較にt検定,群内比較に分散分析と多重比較検定を用い,全ての検定の有意水準は5%未満とした。
【結果と考察】術前筋力値では股関節外転・伸展・屈曲,膝関節伸展・屈曲の全てにおいて両群に有意な差は無かった。術後の筋力回復に術式による差がみられたのは股関節外転筋力と伸展筋力であった。術後2週経過時点では,股関節外転と伸展共に術前比50%程度となり,同様に低下していたが,術後4週と6週においては回復に違いが認められた。股関節外転筋力において,術後4週ではA群0.59±0.09Nm/kg,B群0.72±0.18Nm/kg,6週ではA群0.66±0.12Nm/kg,B群0.81±0.17Nm/kgとなり,B群のほうが有意に高かった。股関節伸展筋力においても,術後4週と6週ではB群のほうが有意に高い値を示した。一方,股関節屈曲筋力と膝関節伸展・屈曲筋力では全測定時期において両群に有意な差は認められなかった。術後6週では,股関節屈曲筋力と膝関節屈曲筋力は両群とも術前比120%程度に回復したが,膝関節伸展筋力は両群とも術前比80%程度の回復に留まった。以上の結果から,THA術後早期の股関節外転筋力と伸展筋力には術式によって回復に差が生じること,また,膝関節伸展筋力は術式に関わらず回復が遅延することが示唆された。