抄録
【目的】膝関節側方安定化に対する大腿四頭筋強化訓練の重要性は広く知られており、臨床では人工膝関節全置換術(以下TKA)施行患者への運動療法としてStraight Leg Raising(以下SLR)、大腿四頭筋セッティング(Quadriceps Setting Exercise 以下QS)を術後早期より指導する機会が多い。しかし、術前後の大腿四頭筋筋活動の経過とQSの施行肢位による差異に関する研究報告は少ない。今回、TKA施行患者に対し経時的にSLR・QSの大腿四頭筋の筋活動測定を行い、比較検討したことをここに報告する。
【方法】平成16年8月から11月に当院でTKAを施行した変形性膝関節症(以下膝OA)患者17名(男性1名・女性16名、平均年齢69.5±11.4歳、平均BMI23.9±4.9kg)・19膝を対象とした。表面筋電計(ノラクソン社製マイオシステムMC4)を用い、術前・1週・2週・3週後のSLR・QS時の内側広筋(以下VM)・外側広筋(以下VL)・大腿直筋(以下RF)の筋電図積分値を算出した。QSの肢位は1)長坐位で足関節背屈と同時(以下長坐位)、2)臥位で1)と同様(以下臥位)、3)直立位(以下立位)、4)足部回外10°の立位で股関節内転と同期(以下同期)の4種類とした。計測は5秒間の最大努力性収縮を行った。長座位の最大随意収縮での筋電図積分値(以下MVC)を100%として各姿勢での筋別計測値の換算値を算出し、積分筋電図波形のピーク時を中心とした1秒間の平均値を各筋の最大随意収縮(以下%MVC)とした。各筋の%MVCをVM/VL、VM/RFとして比率を算出し比較した。統計処理は分散分析を用い有意水準は5%以下とした。
【結果】VM/VL比の比較:術前はSLRが有意に高値であった(p<0.05)。1週後はSLRと長坐位が有意に高値を示した(p<0.01)。2週後は有意差はみられず、3週後は同期が高値を示し長坐位・臥位・SLR間と有意差がみられた(p<0.05)。VM/RF比の比較:術前後を通してSLRで有意に低値を示した(p<0.05)が4種類のQSはRFに対しVM優位であった。3週後で同期が高値であり臥位間と有意差がみられた(p<0.01)。
【考察】膝OAではVMの萎縮によりVLとの均衡が崩れ、膝蓋骨の動きが円滑に行なわれず膝蓋・大腿関節の疼痛が起こり問題とされる。筋の不均衡改善が重要であるという観点からVM/VL比が大きいトレーニングほど良いとされる。本研究にて1週後では長坐位とSLRでVM優位であり、術後早期にVMの選択的収縮を得るにはSLR、長坐位が有効であることが示唆された。3週後には同期がVM優位であり、今回の結果より術後早期には臥位・坐位での訓練にて膝関節の安定性を促し、その後立位レベルでの訓練に移行していくことが有効であると提案する。