抄録
【目的】
装具を用いた歩行訓練は脊髄損傷後のリハビリテーションで広く実施されているが、習熟に長期を要すること、高い身体的負担を強いることが問題点として指摘されている。また、装具歩行による下肢の関節可動域の変化については明らかにされていない。本研究ではエネルギー消費の指標であるPCI(Physiological Cost Index)を用いて、3ヶ月間の装具歩行トレーニングによる運動効率の変化を縦断的に検討するとともに、下肢の関節可動域に与える影響を検討することの2点を目的とした。
【対象および方法】
下肢運動機能に完全麻痺をもつ脊髄完全損傷者7名(男性、19-34歳、Th5-12損傷)を対象とした。被験者は3ヶ月の間、交互歩行装具(Advanced Reciprocating Gait Orthosis:ARGO)を用いて、20分/回、3回/週の頻度で歩行トレーニングを実施した。訓練中の歩行速度は実施者当人の自己快適速度とした。訓練期間中、1週毎に歩行中の心拍数、10m歩行時間を測定し、これらの値から歩行速度(m/min)及びPCI(bts/m)を算出した。また、3ヶ月の装具歩行トレーニング開始前と終了後に下肢の関節可動域測定を行い、前後の値をそれぞれ比較検討した。
【結果】
全ての被験者において訓練経過に伴う歩行速度の増加(訓練開始1ヶ月後→3ヶ月後:13.14±3.60→24.07±5.55 m/min, p<0.05)、およびPCIの減少(5.17±1.88→3.16±0.82 bts/min, p<0.05)を認めた。関節可動域は変化が生じると思われた股関節伸展、足関節背屈について比較検討を行ったが、被験者間において一定の改善傾向は見られなかった。
【考察】
トレーニング開始時と終了時の歩行速度とPCIを比較すると、歩行速度は開始時の140~170%に増加し、PCIは50~60%に減少した。関節可動域については被験者間でばらつきが大きく、一定の傾向がみられなかったため、ARGOでの歩行トレーニングが関節可動域の改善に有意に働くとは考えにくい。歩行速度の増加とPCIの減少はトレーニングによる歩行動作の習熟、および歩行運動の継続的な実施による呼吸循環機能改善を反映しているものと考えられる。本研究の結果は、装具歩行トレーニングの継続的な実施によって運動効率が向上し、歩行中の過度の身体的負担が軽減されることを明確に示すものであった。