抄録
【目的】
正中神経麻痺の起る原因としては、切創や開放創による受傷も多いが、いくつかの絞扼部位があり、手根幹症候群・回内筋症候群・前骨間神経麻痺等の絞扼性神経障害もある。近年、この正中神経麻痺の治療として、自然回復する例を除くと神経剥離術や腱移行術による対立機能再建や知覚障害の再建などが行なわれている。その中で本症例は、正中神経麻痺(対立運動障害)に対して腕橈骨筋と長母指屈筋腱を縫合・示指と環指の深指屈筋腱を側々吻合・固有小指伸筋腱を短母指外転筋と縫合した腱移行術を施行され、その後、理学療法にて再建筋の機能を徒手的や様々な器具・道具を使用し改善することが出来、日常生活動作(以下ADL)は元より職業復帰レベルまで可能となったので、理学療法の方法と若干の考察を加え報告する。
【症例紹介】
53歳男性。職業は飲食業(調理師)。平成15年5月22日交通事故にて左大腿骨頸部骨折・左下腿両骨骨折・右鎖骨骨折・右恥骨坐骨骨折・顔面外傷・右正中神経高位麻痺を受傷し、A病院へ搬送。6月6日、左大腿骨頸部骨折(γ-ネイル)・左下腿両骨骨折(プレート固定)・右鎖骨骨折(プレート固定)に対し、観血的整復固定術(以下ORIF)施行。7月11日当院へ転院、理学療法開始となる。10月8日B病院に転院し、11月5日左下腿骨感染性偽関節による対側腓骨移植術、右上肢筋腱移行術施行。12月1日リハビリ目的にて当院再入院となる。
【経過と理学療法】
本症例は、二度のORIFを行っており、左下腿骨の骨癒合が不十分であり長期にわたり充分な免荷が必要となった。ADLや職業動作の獲得も必要であったが、松葉杖や物的介助を使うためにも早急に上肢機能の回復が必要であると考えた。そこでまず、非常に硬い拘縮を起こしている手指・手関節の可動域を改善させるため、物理療法と関節可動域練習を行った。徐々に可動域が改善してきたので、次に再腱機能の獲得を目指し、縫合した腕橈骨筋を使用し、縫合した長母指屈筋を同時に動かし、深指屈筋も示指と環指を同時に動かす複合運動練習を徒手的や器具・道具を使用して繰り返し練習を行った。同時に動かせるようになったので、次に単独に母指の屈曲動作を行うように練習した。また、この時に巧緻動作練習(母指と示指でのピンチ等)や職業復帰を目指し料理動作(菜箸・包丁の使用等)の練習も行った。
【考察】
二度の手術を行われ、長期間に治療が行われ事となったが、患者様の意欲も高く、複合した動作練習から単独の動作練習を粘り強く反復練習を行えた事により、巧緻動作も充分に可能となった。また、ADLが可能になっただけでなく調理動作も行うことが出来、復職可能な状態となっている。