抄録
【目的】
両側の股関節が障害される両側変形性股関節症(以下,両股OA)患者の歩行は,股関節の運動性が低下するため,他関節での代償作用が疑われる。両股OA患者は歩行速度の低下が報告されており,今回,対照群として自由歩行・低速歩行での健常群を用い、両股OA群と検討したので報告する。
【対象】
対象は両股OA群12例(男性1名,女性11名,年齢59.4±11.2歳,身長150.8±6.1cm,体重56.7±7.1kg,病期は進行期~末期で全例THA前),健常群12例(女性12名,年齢64.3±2.7歳,身長148.1±4.9cm,体重52.6±7.8kg)とした。全ての対象者には,本研究の趣旨を説明し同意が得られた。
【方法】
歩行分析には三次元動作解析装置VICON370(OXFORD METRICS社)を用いた。動作解析用のマーカーは仙骨部(両上後腸骨棘中央)・以下より両側の上前腸骨棘・大腿外側下1/3部・膝関節裂隙・下腿外側中央部・外果・第二中足骨頭に貼り付けた。両股OA群は自由歩行,健常群は自由歩行と低速歩行(「ゆっくりと歩いてください」の指示のみ)の二種類を測定した。解析はVICON CLINICAL MANAGER(OXFORD METRICS社)を用いた。
解析は立脚期のみとしたため,踵接地から足尖離地までを抽出し正規化した。モーメントとパワーは群間で比較できるように体重比を求めた。また,関節角度は特性点と可動域を,関節モーメント・関節パワーは特性点を比較した。
統計処理はStudent's T-testを用い,有意水準は5%とした。
【結果と考察】
■ 両股OA群と健常群(自由歩行)の比較
自由歩行の健常群は歩行速度が有意に大きかった。歩行速度は他のパラメータと相関があると言われており,歩行速度の違いを少なくするために,以下に両股OA群と低速歩行での健常群とを比較した。
■ 両股OA群と健常群(低速歩行)の比較
1.時間-距離因子:歩行速度(m/s)・単脚支持期率(%)は群間に有意差は見られなかったが,歩幅(身長比)では有意に両股OA群が小さく,ケイデンス(steps/min)は有意に両股OA群が大きかった。
2.関節角度:骨盤前後傾角度では,両股OA群は有意に前傾位で関節可動域が大きかった。股関節角度では両股OA群が有意に伸展角度や関節可動域が小さかった。
3.関節モーメント:各特性点に有意差はみられなかった。
4.関節パワー:各特性点に有意差は見られなかったが,蹴りだしである立脚後期の足関節短縮性収縮は両股OA群が増加する傾向にあった。
本研究の結果より,両股OA群は股関節伸展角度減少等により歩幅が縮小をきたし,歩行速度の低下を避けるためにケイデンスを増加させた歩行戦略であると考えられる。また,両股OA群は骨盤や足関節への負荷増加傾向がみられた。