主催: 社団法人日本理学療法士協会
【はじめに】
拘縮肩において拘縮した軟部組織を効果的に伸張することが重要であるとともに、適切な関節裂隙の距離が正常可動域を獲得するために必要と考えられる。一般に、肩関節では腱板断裂の診断のためX線撮影にて肩峰-骨頭間距離(以下AHD)が測定されることがある。今回我々は、AHD評価の、裂隙距離を定量化する手段としての有効性と、可動域制限との関連性について検討した。
【方法と対象】
対象は拘縮肩にて治療中の患者で対側上肢が健側である者15例であった。X線正面像よりAHD及び上腕骨頭径(骨頭最大径)を測定し、上腕骨頭径に対するAHDの比(以下AHD/HHD比)を計算した。また、肩関節可動域(屈曲・伸展・外転・外旋・内旋)を測定し、その健患差とAHD及びAHD/HHD比それぞれとの相関の有無を検討した。相関の有無の判定はSpearmanの符号順位相関を使用した。
【結果】
AHDは9.6±2.6mm、AHD/HHD比は0.20±0.06であった。肩関節可動域の健患差は屈曲24.9±23.1°、伸展10.2±8.3°、外転33.3±24.1°、外旋31.1±20.6°、内旋25.7±16.7°であった。AHDと各可動域の健患差には有意な相関を認めなかったが、AHD/HHD比は屈曲、外転可動域の健患差と負の相関を認めた(p<0.05)。
【考察】
AHDは関節可動域の健患差と有意な相関を認めず、AHD/HHD比は一部の関節可動域の健患差と相関を認めた。これは、体格により関節裂隙が異なるために、AHDに補正が必要なためと考えた。すなわち、骨頭径比として補正を行ったAHD/HHD比が関節裂隙の距離を体格にかかわらず、正確に反映したためと考えた。AHD/HHD比は屈曲・外転可動域の健患差と有意な相関を認めた。屈曲・外転など挙上動作は上腕骨大結節が鳥口-肩峰アーチの下方に取込まれる必要があるため、肩関節上方裂隙の距離が、その可動域に影響を与えたためと考えた。
以上より、AHD/HHD比は屈曲・外転など挙上可動域と関連があり、関節機能を反映していることが示唆された。関節裂隙に対する評価が、拘縮肩の治療上重要であると考えた。