抄録
【はじめに】腹横筋は脊椎の安定化に重要な役割を果たすとされ,腹横筋のエクササイズにより姿勢変化が短時間ではなく保持されたと報告されている。今回我々は,腹横筋のエクササイズが身体運動に及ぼす影響を検討したので報告する。
【対象】当院外来通院患者44名(男性12名,女性32名,平均年齢63歳),本研究の趣旨に賛同して頂いた方を対象とした。
【方法】端坐位,骨盤前傾位にて腹横筋多裂筋同時収縮40秒間のエクササイズを施行し,その前と直後で体幹回旋角度を測定した。さらにシルエット変化の観察として骨盤後傾姿勢を矢状面よりデジタルカメラで撮影し,Th8からL4/5の指標点を中心に,視覚的に直線的か曲線的かを観察した。この際患者にはできるだけ後ろへ体重移動させ,背中を丸めるよう指示を行った。尚,今回課題として指示した運動で,40秒連続する保持が出来なかった場合は,数回に分け計40秒となるよう設定した。
【結果】体幹回旋角度は,エクササイズ前は右47.8±6.4°,左50.5±7.2°,エクササイズ後は右54.2±6.8°,左57.0±7.2°と変化し,エクササイズ前後に有意な差を認めた(P<0.01)。シルエットは,30例で視覚的変化を認めた。
【考察】腰痛などの有痛性疾患と腹部筋群との関係は古くより報告され,臨床でも重要視されている。その中でも腹横筋は,多裂筋の緊張発生を介して脊椎の分節性運動に関与し,集中する負担の分散,また,姿勢保持にも重要な役割を果たしていることが示唆されている。今回調査した結果,腹横筋多裂筋同時収縮のエクササイズにより,その前と直後で体幹回旋角度と骨盤後傾位でのシルエットに変化が認められた。今回得られた結果は,これまでの報告をもとに考察すると,筋力増強や可動域改善によるものではなく,腹横筋の分節性運動制御が働き,脊椎の安定性が得られ運動のしやすい条件が整ったのではないかと考えられる。また,骨盤運動は脊椎と股関節の共同運動によって成り立ち,どちらか片側の運動が改善されても今回の結果に反映されることが予想され,股関節機能に及ぼす影響も考慮することが必要となる。しかし,腹横筋と多裂筋に対する運動により結果として変化が見られたことは事実であり,これらの結果より,腹横筋と多裂筋に対するエクササイズが姿勢変化はもとより運動性についても影響を及ぼしていることが推察された。今回調査したエクササイズの有用性,ならびに作用機序を明らかにするためには,股関節と骨盤,脊椎の相互の関係ならびに,独立した影響の検証が必要となる。今後検討を重ね,その作用機序について検討していく。