抄録
【はじめに】高齢者の転倒を引き起こす要因の1つとして、姿勢制御能力の低下が挙げられる。我々は、第39回日本理学療法学術大会において、立ち上がり動作時の足圧中心(Center of Pressure:COP)変化と、対象者の転倒経験とを比較し、立ち上がり直後5秒間の前後動揺(足長比)が、転倒経験者で有意に高いという検討結果を報告した。今回は、前回対象者のその後1年間の転倒経験を調査し、立ち上がり動作時のCOP変化が転倒を予測しうるものであったか、という視点で改めて検討を行ったのでここに報告する。
【対象と方法】対象は前回対象者(当院外来通院中の独歩可能な患者で、神経疾患を有さないもの88名)のうち、聞き取り調査が可能であった58名(平均年齢74.7±7.7歳)。データは、椅子坐位の状態から立ち上がる動作を3回行い、試行ごとのCOP変化を重心動揺計(G-620・アニマ社製)を用いて測定した、前回のものを採用した。転倒予測上の分類分けは、立ち上がり直後5秒間の前後動揺(足長比)が高値(0.15以上)のものを“転倒ハイリスク群”、低値(同0.15未満)のものを“転倒ローリスク群”と規定した。調査は、COP測定後から1年間の転倒発生有無を聞き取り方式にて行い、この結果をもって両群間の違いを検討した。なお、統計処理はカイ2乗検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】転倒ローリスク群では「転倒しそうになった」7名(実際の転倒3名)、「転倒の危険なし」12名となった。一方、転倒ハイリスク群では、「転倒しそうになった」21名(実際の転倒4名)、「転倒の危険なし」18名となり、「転倒しそうになった」者の割合は転倒ハイリスク群で有意に高かった(p<0.05)。また、今回1年間の転倒経験とそれ以前の転倒経験とを比較した結果では、過去の転倒経験者は「転倒しそうになった」18名(実際の転倒6名)、「転倒の危険なし」10名であったのに対し、過去の転倒経験なしの者は「転倒しそうになった」9名(実際の転倒1名)、「転倒の危険なし」21名となり、「転倒しそうになった」者の割合は過去の転倒経験者で有意に高かった(p<0.05)。
【考察】今回得た結果より、立ち上がり動作時のCOP変化や、過去の転倒経験の有無が「転倒しそうな」場面を予測する手がかりになりうるものと示唆された。ただしデータが示した通り、「転倒」そのものの予測までは困難であったと言える。「転倒しそうな」場面で転倒するか否かについては、加齢、身体機能、生活環境場面、個人の性格的なものなど、様々な要因が含まれていると考えられ、今後さらなる検討が必要と考えられた。