理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1008
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骨・関節系理学療法
変形性膝関節症の重心動揺について
―重心動揺と日常生活活動との関連性―
*桜井 徹也高橋 賢石井 亮木賀 洋熊谷 育美
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抄録

【目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)では変形だけでなく,関節の不安定性や重心動揺の異常も問題になると考えられる.これに関して,福井らは膝OA患者の姿勢にみられる胸椎後彎,膝内反のアライメントにより身体重心の後方化が生じるため,姿勢保持のため重心を前方に移動させる力が働くと述べている.また,Inmanは膝関節の生理的外反減少は重心の側方移動を大きくすると述べている.このようなアライメントに対する反応も含め,膝OA患者においては健常者と比べ前後左右方向への重心動揺が大きくなると考え,静止立位時の重心動揺を測定し,重心動揺と日常生活との関連性についての考察を得たので報告する.
【対象】
当院にてTKA適応とされた両側性膝OA群(女性10名,年齢:74.3±7.9歳,身長148.9±4.8cm,体重56.4±8.3kg,BMI25.5±3.7)と両下肢に整形外科疾患の既往のないn群(女性8名,年齢70.5±5.5歳,身長152.1±9.0cm,体重51.6±6.0kg,BMI22.4±3.3)を対象とした.なお両群において中枢神経疾患の既往はなかった.
【方法】
重心動揺計(GRAVICORDER G-620,アニマ社製)による重心動揺の解析を実施した.開眼・閉眼両脚立位保持における重心動揺を各3回測定し,分析項目にはX方向軌跡長,Y方向軌跡長を採用した.統計処理にはunpaired‐t検定により比較した(p<0.05).
【結果】
X方向軌跡長は閉眼時では膝OA群43.41cm,n群31.22cmで有意差が認められた.開眼時では膝OA群22.84cm,n群22.23cmで有意差は認められなかった.Y方向軌跡長は閉眼時では膝OA群42.07cm,n群31.00cmで有意差が認められた.開眼時では膝OA群26.15cm,n群22.82cmで有意差は認められなかった.
【考察】
Loadらは,視覚系への依存度は65~69歳を境に急速に低下,末梢感覚への依存度は加齢に伴い増加を示したことから,高齢者の静的バランスには末梢感覚系が最も重要であると述べている.本研究においても両群の閉眼時のX・Y方向軌跡長にのみ有意差が認められたことから,末梢感覚系の影響が推測された.膝OA患者のバランス反応において,変形による膝関節不安定性やアライメント変化が末梢感覚系の機能低下をさせ,代償的に視覚系への依存度が大きくなり,さらに膝関節周囲筋の筋機能不全も伴うことで,閉眼時における重心動揺が大きくなったと考えられた.よって末梢感覚系の改善を図ることで,つまづきや転倒,膝不安定性による歩行時の側方動揺や痛みなど日常生活活動への悪影響を抑制できる可能性があると思われた.今後は末梢感覚系に対するアプローチに注目し,重心動揺と日常生活活動への効果についての関連性を検討していきたい.

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© 2005 日本理学療法士協会
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