抄録
【はじめに】近年,肩関節においては関節鏡手術が取り組まれている.関節鏡手術は低侵襲で行うため,術後早期機能回復が期待される.当院では反復性肩関節前方脱臼に対し,肩甲下筋を縫縮するプチ・プラト手術を行ってきたが,平成15年からは関節鏡視下にて前方の関節唇を修復するバンカート修復術を施行している.今回,これらの術後肩回旋筋トルクカーブを比較し,若干の知見を得たので報告する.
【対象と方法】対象は,片側性の反復性肩関節前方脱臼に対しプチ・プラト手術を施行した8例(以下P群)と鏡視下バンカート修復術を施行した6例(以下B 群)の計14例とした.P群は男性4例,女性4例,手術時年齢平均24.1歳(20~29歳),経過観察期間平均36.5か月(19~60か月)で,B 群は男性4例,女性2例,手術時年齢平均24.8歳(17~29歳),経過観察期間平均10.5か月(6~14か月)であった.運動課題はCYBEX770を用いた肩甲骨面外転45度での等速性内旋,外旋運動とし,それぞれ5回施行した.運動範囲は,内旋60度から外旋60度とし,運動速度は角速度60,180度毎秒の2種類を設定した.回旋トルク値は5施行の平均値を回旋可動域10度毎で求め,健側の最大値で正規化した.次いで両群の健側(以下健側),P群患側,B群患側の3群で比較した.統計には2元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした.
【結果】60度毎秒の内旋,外旋運動時におけるトルクカーブは,健側,P群患側,B群患側共に類似した台形を呈しており,3群間では有意な差は認められなかった.180度毎秒の内旋運動では,健側,P群患側,B群患側共に外旋20度付近で最大となり,内旋域に移行するに伴い次第に低下した.3群間で有意な差は認められなかった.180毎秒の外旋運動は,P群患側は健側とB群患側に比べ,外旋域において有意に低下していた.各運動速度において,内旋運動は外旋域で有意に高く,外旋運動は,内旋域で有意に高かった.
【考察】60度毎秒の内外旋運動において,P群,B群の患側は,健側と類似したカーブを示した.このことより両群の患側は,低速での運動では良好な回復が得られていたと考える. さらに,B群患側は,180度毎秒の外旋運動において, P群患側に比べ外旋域で有意に高く,健側に近いカーブを呈したことから,速い収縮速度でも筋出力能力は早期から回復が得られたと考える.今後,関節角度とトルク値の関係等,術後肩回旋筋の活動特性を明らかにし,術後理学療法プログラムの検討へ進めていきたい.