抄録
【はじめに】われわれは完全対麻痺者の歩行再建に,内側股継手付き長下肢装具を用いたハイブリッド機能的電気刺激(以下;FES)を行っている.その際の内側股継手は,WalkaboutとPrimewalkを使用している. Walkaboutは股継手軸が生理的股関節軸と乖離しており,股関節可動域制限が出現し,歩幅を大きく出すことができなかった.そのため才藤らは仮想軸を用い,スライド式内側股継手Primewalkを開発した.これにより仮想軸が生理的股関節軸に近づくため,Walkaboutで生じた著しい股関節可動域制限が軽減し,歩行速度も速くなった.しかし,下位胸髄損傷者がPrimewalkを使用すると,歩行能力の向上が明確なものの,上中位胸髄損傷者では体幹の不安定感を強く訴えた.一方,Walkaboutでは体幹の不安定感を訴えなかった.本研究の目的は,WalkaboutとPrimewalkが骨盤回旋可動域と歩行に与える影響を検討することである.
【対象と方法】WalkaboutとPrimewalkを使用し,歩幅の変化による骨盤回旋可動域の測定および歩行時の体重心移動を測定した.骨盤回旋可動域の測定は健常者男性15名,平均年齢は33.5歳,平均身長は175.1cmを対象とし,歩行評価は第8胸髄損傷における完全対麻痺者1例を対象とした.骨盤回旋可動域の測定は,内側股継手付き長下肢装具(WalkaboutとPrimewalk)を着用し,歩幅を20cm,30cm,40cm,50cmと変化させ,それぞれで体幹を左右に回旋させた.その際,三次元動作解析装置Peak(PeakMotus)を用い骨盤回旋角度を計測した.また歩行評価は,Walkabout及びPrimewalkを装着し歩行時に得られた運動学的データから体重心の変位を算出した.
【結果】骨盤回旋角度は全ての条件でWalkaboutがPrimewalkより著しく低下していた.両股継手共に,歩幅が大きくなるに伴い回旋角度は低下した.歩行時の体重心移動変位は,Walkaboutで小さく規則正しかった.Primewalkでは不規則であった.
【考察】Walkaboutは股継手軸と股関節軸が乖離しているため,一側下肢を振り出し時に逆方向へ骨盤が回旋する.その際,骨盤回旋の可動域に著しい制限が生じる.従って,両脚支持期では,下部体幹が固定される.一方,Primewalkは股継手軸が生理的股関節軸に近いため,骨盤の逆方向への回旋が強制されない.そのため両脚支持期における骨盤回旋可能範囲が拡大し,不安定感が出現する.上中位胸髄損傷でPrimewalk使用は体幹筋が骨盤までは効かないため,体重移動時に骨盤回旋を抑制することは難しく,体重心の移動が不規則となる.一方,下位胸髄損傷者では,Primewalkの有用性を十分に発揮することができ,患者の満足度も高い.上中位胸髄損傷者はWalkaboutを使用し,下位胸髄損傷者はPrimewalkを使用することが効果的と思われた.