理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 608
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内部障害系理学療法
緩和ケア病棟における理学療法の意義について
*阿部 郁代森下 一幸矢野 歩播井 宏充伊藤 恭兵山口 紫穂宮崎 哲哉高橋 博達井上 聡
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キーワード: ホスピス, 終末期, 理学療法
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抄録
【はじめに】ホスピス・終末期の理学療法は、患者のニードに沿って、残された機能や役割を最大限に引き出し、患者のQOLを高めるための援助をしていく。そこで、ホスピス患者への治療を通して、終末期患者の障害像の特徴と理学療法の意義について検討した。
【スピリチュアルケアについて】ホスピス・緩和ケアの基本であるスピリチュアルケアは、患者やその家族が苦痛に悩まされず、残された人生をどのように生きることができるかという視点が重要であり、『生きることへの援助』を行うことである。死と直面した終末期に経験するスピリチュアルペインは、『自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛』と定義される。
【症例提示】(症例1)80歳女性。診断名は炎症性乳癌。胸部から肩甲帯周囲にかけて、癌転移による皮膚組織破壊がみられた。左上肢は全体が浮腫により機能全廃。痛みのため、全身屈曲姿勢を呈し右上肢を前胸部へ内転位で固定している。ニードは、主介護者の次女より固くなっている右上肢を伸ばしてほしいとのことであった。アプローチは、徐々に伸展および従重力方向への可動域の拡大を図り、背部の面への適応を促した。(症例2)67歳女性。診断名は直腸癌。左下腹部に人工肛門造設。水腎症ありフォーレ留置。下腹部から鼠径部に皮膚転移、大腿前面の強い疼痛あり。ベッド上背臥位姿勢は、右側屈回旋し、左下肢は股関節屈曲外転外旋位、右下肢は屈曲内転内旋位、両膝関節伸展制限、下腿は浮腫を認める。ニードはトイレまで歩けるようになりたい、右足の重苦感の軽減であった。アプローチは、ベッド上と座位や立位にて対称姿勢をとるようにアライメントの修正を行った。
【考察】病気の進行に伴い、意識レベルの低下や傾眠、倦怠感の増加、痛み、浮腫の増加、運動麻痺や呼吸困難等が見られ、ベッド上でも一定の姿勢をとる傾向にある。そして、姿勢の多様性が欠如し、アライメントの歪みと身体認識低下が起こる。岩村は、自己認識の基本は体性感覚であるとしている。よって、体動の少ないことにより、終末期患者は自己認識や身体認識が欠如しやすい状態に陥ると考えられる。よって、終末期の理学療法は、姿勢や体動の多様性の確保を行うことによって、自己認識の向上とスピリチュアルペインの緩和をもたらすと考えられる。結果的に、ベッド上で楽に動ける、または介助に協力できるようになる、ADL動作の維持が可能であると考えられる。
【まとめ】終末期患者に対する理学療法について、症例を通してその特徴と意義について検討した。病状の進行によって、臥床がちとなり、それに付随する廃用障害が助長され、加えて身体認識の欠如が起こりやすい。姿勢や体動の多様性の確保を行うことにより、身体認識や存在の認識の向上へ結びつけることが重要である。終末期における理学療法の介入は、スピリチュアルケアの一環として働きかけが可能と考えた。
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© 2005 日本理学療法士協会
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