抄録
【背景・目的】我々は先行研究において、血液透析(HD)患者のQuality of life(QOL)やActivity of daily living(ADL)に影響を及ぼす因子として、HD患者特有の痒み・痛み・疲れなどの自覚症状だけでなく、身体活動量や身体機能が関与することを報告した。また、身体機能の維持・向上には運動療法の継続が重要であることを示した。しかし、HD患者では身体活動量が極めて低く、運動の継続率をいかに改善するかが大きな課題として残されている。近年、高齢者や心疾患患者を対象とした研究において、身体活動セルフ・エフィカシー(SE)が注目され、SEは身体機能と密接に関連し、運動の継続に影響を及ぼすことが示唆されている。そこで本研究は、HD患者に運動療法を介入し、身体機能および身体活動SEの変化を検討した。
【方法】外来通院にて週3回、血液透析療法を施行しているHD患者33例(年齢57±9歳、透析期間8.8±7.4年)を対象とした。測定項目は年齢、性別、透析期間、Body mass index(BMI)、血液検査所見(血清アルブミン値、ヘマトクリット値)、身体機能(握力、膝伸展筋力)、身体活動SE(上肢SE、下肢SE)を測定した。各測定項目は2003年10月から2004年6月の間に、6ヵ月以上の間隔をあけてベースライン時と6ヵ月後の2回測定した。解析方法は、対象を8週間の運動療法(筋力トレーニング)を実施した介入群(21例)と実施しなかった非介入群(12例)の2群に分け、各群における6ヶ月間の身体機能および身体活動SEの変化を比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】ベースライン時の各測定項目について2群間に有意な差を認めなかった。6ヵ月間の変化では、介入群の握力は改善を認めなかったものの、膝伸展筋力は有意に改善したのに対して(P<0.05)、非介入群では握力と膝伸展筋力に有意な変化を認めなかった。一方、身体活動SEは、介入群では上肢SE・下肢SEともに有意な変化を示さず、SEの低下を防ぐことができたのに対して、非介入群の上肢SE・下肢SEはともに低下傾向を示した(P<0.1)。
【考察】運動療法を介入した群は身体機能の改善を反映して上肢SE・下肢SEともに維持または改善できたのに対して、非介入群では身体機能は改善を示さず、上肢SE・下肢SEはともに低下するなど、HD患者においても身体機能とSEが関連することが示された。HD患者の身体機能は低下しており、この低下は透析期間の長期化に伴いさらに大きくなることが報告されている。HD患者の身体活動SEは透析期間の長期化に伴い低下し、またこのSEの低下がさらに身体活動量を低下させるなど悪循環に陥る可能性がある。このことから、HD患者のADLやQOLの改善には、身体機能だけでなくSEの向上を目的としたアプローチの必要性が示唆された。