抄録
【目的】筆者が青年海外協力隊でネパール障害者協会に派遣されていた1987年当時、ネパールにコミュニティ・ベースド・リハビリテーション(以下CBRとする)が導入された。初期には医療チームが在宅生活を強いられている障害者を訪問し、自主プログラムや家族指導を行っていた。その後、CBRワーカーが養成されたり、また近年障害者の権利に焦点があてられ、当事者活動が活発となり、CBRにおける理学療法士(以下PTとする)の関わり方も変化をとげている。2003年には世界理学療法連盟(以下WCPTとする)もCBRに関する公式見解を示している。ここでは、ネパールにおけるPTのCBR活動を通して、CBRの課題を考察する。
【方法】1.参与観察:1986年から2004年まで、ネパール渡航は10回以上。2.非構成面接:病院や非政府組織(以下NGOとする)が実施しているCBRプロジェクトを訪問し、PTを含む関係者に深層面接。3.文献調査:NGOの活動報告書
【結果】1.PTのCBRの関わり方は、勤務先の病院やリハビリテーションセンターへCBRを実施しているNGOなどからの照会、CBRワーカーの研修、フィールド訪問などであった。2.PTに求められる技術は、運動療法、家族指導、ADL指導、義肢装具の適合、適切な照会先の情報、農村で活用できる適正技術などであった。3.理学療法の対象となる障害は、脳性麻痺、ポリオ、熱傷、骨折、切断、脳卒中、ハンセン病、腰痛などであった。4.国際NGOなどに勤務しているPTは、巡回リハプログラムやCBRワーカーの研修など管理運営にも関与していた。5.CBR事業継続のため安定した経済基盤をもっている団体はごく少数であった。6.地域住民の参加を促すため、貯蓄や収入向上プログラムなど地域開発の手法が主になってきた。
【考察】ネパールは南アジアに位置する途上国の一つで、医療では他の途上国と同様に感染症対策が主なために、国による障害者へのリハビリテーションサービスが非常に限られており、海外から支援をうけたNGOがCBRを実施している。障害を負うと学校へ行けなくなったり、就労が困難となり、家族が経済的に困窮することが多い。そのため、受療行動が制限されることが予測されるので、経済的な配慮も不可欠である。その一方で、事業運営の持続性を考慮した場合、経済的な自己負担を含め障害当事者や家族の参加だけではなく、地域住民の関与もますます重要となっている。CBRの発展を考えた時、リハビリテーションの社会モデルが非常に重要な意味をもつ。
【まとめ】欧米のPTの中には、自国にてNGOを立ち上げ、ネパールのCBRを経済的・技術的に支援をしている人がいる。日本の国際協力分野でも、途上国の障害者が地域社会で安心して生活していけるように支援するため、国際協力機構(JICA)やNGOがPTに寄せる期待は大きい。