抄録
【はじめに】訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の対象者の中には,独居高齢者が多く見られる。そして,身体機能面の低下に加え、精神的サポートの低下により,家に引きこもりがちになる。つまり,引きこもりを防止するためには身体機能面向上を目指す一方,精神的サポートも重要になってくる。今回、精神的サポートを考える中で,どのように人間関係を構築し,リハビリを進めるべきかを考える1症例を経験した。そこで,身体的アプローチと伴に精神的サポートも重視し,日常活動量が向上した1症例を若干の考察を加えて報告する。
【症例】当症例は,81歳,女性。平成2年クモ膜下出血。平成12年右大腿骨頚部骨折。平成15年5月に介護認定を受け,介護度1であった。平成16年4月より週1回の訪問リハ開始となった。
【初期評価】生活状態はアパート1階の独居で,ADLはすべて自立していたが,買い物や病院への付き添い,部屋の掃除などで週1回,ヘルパーを利用していた。身体機能面では特に四肢可動域制限は認められないが,両下肢に筋力低下が認められた。歩行時、右大腿部に痛みを訴え,移動はつたい歩きか時には四つばいであった。屋外歩行は押し車を利用し,休憩を取りながら20分程度がやっとの状態であった。高次機能障害は認められないが,精神不安定の状態であった。
【リハビリ介入】初期評価後,心肺機能低下や筋力低下などの問題に対するアプローチと同様に精神面のサポートも重要であると考えられた。リハビリ開始当初は屋外歩行を拒否することが多かった。そこで,家から近くの公園にお互いお弁当を持って,昼食を一緒に食べることを目的に家から外へ向けて行くことを進めた。
【結果】2ヶ月過ぎた頃から,自分のお弁当を用意するために近くのスーパーへ買い物に出掛けるようになり,3,4ヶ月後には毎日のように外出するようになった。雨の日でもアパートの廊下にて歩行練習を行い。病院にも一人で歩いて行けるようになり,市長選挙の投票に行くなどの社会参加も見られ始めた。右大腿部の痛みも減り、5kgの減量に至った。この結果から担当ケアマネジャーに、リハ終了を打診したが、訪問リハを生きがいにしているという理由から現在も継続中である。
【考察】今回,このような結果に至ったのは,リハビリテーション医学を背景に対象者の問題点を捉え,約60分のゆとりある訪問リハで,運動治療の重要性を十分に説明し,信頼関係を構築できたところにあると考えられる。つまり,医学的管理でサポートされているという安心感が生まれて始めて,精神的サポートができるのではないかと考える。今では,歩行練習の他に筋力増強トレーニングも自主的に行っている。今後は2005年3月に弊社が開設するリハビリ施設への利用に移して行きたい。今回のリハビリ介入に対して賛否両論あると思われるが,本大会で様々な意見交換ができればと考える。