理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 791
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生活環境支援系理学療法
介護老人保健施設の通所者と入所者の運動機能の比較
*今井 理恵荒益 志穂北見 知子八月朔日 千秋斉藤 秀之宮本 昭彦伊佐地 隆土屋 滋小関 迪
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抄録
【はじめに】同程度の要介護度であっても、在宅生活者(以下、通所者)と施設や病院での生活者(以下、入所者)が存在している。その中で、歩行が自立あるいは軽介助であり、介護度が軽度の方が社会的要因のみで入所しているかどうか疑問に感じている。そこで、要介護度別に通所者と入所者の間で、運動機能にどのような相違があるのかを調査したので報告する。
【対象および方法】対象は、当施設および関連介護老人保健施設の利用者のうち、歩行が自立から軽介助にて可能な要介護1~3、痴呆性老人の日常生活自立度が1~2の全てを満たし、調査の趣旨を理解し同意を得られた73名(通所者41名、入所者32名)とした。運動機能評価は、10m歩行、3m椅子間歩行、握力、等尺性膝関節伸展筋力、Functional Reach(以下、FR)、開眼片脚立ちの6項目とした。各々の測定を一回ずつ行い、左右測定するものは最高値を採用した。通所者と入所者の要介護度別の運動機能を統計解析ソフト「Stats View5.0」を用いて統計学的に比較した。
【結果】通所者・入所者の要介護度の内訳は、要介護1:17名・11名、要介護2:13名・11名、要介護3:11名・10名であり、有意な分布の差は認めなかった(χ2=0.4、p>0.05)。要介護1で、3m椅子間歩行、膝伸展筋力、開眼片脚立ちにおいて通所者の方が入所者に比べ明らかに機能は良好であった(p<0.05)。要介護2では、通所者と入所者の間に有意な差は認めなかったが、3m椅子間歩行、開眼片脚立ち、FRにおいて通所者の方が入所者に比べ機能は良好な傾向を示した。要介護3では、3m椅子間歩行、開眼片脚立ち、FR、10m歩行において通所者の方が入所者に比べ明らかに機能は良好であった(p<0.05)。
【考察】入所者は通所者に比べ、施設という環境および「安全」を求める環境ゆえに歩行する機会が少なく、さらに段差や不整地を歩くことも少ないと思われる。また家に比べて広いため、歩行の不安定性や耐久性が十分でないと車椅子使用を中心とした生活になりがちである。そのことが本調査で入所者の方が通所者に比べ運動機能が低下している要因と考えられる。特に、入所者における3m椅子間歩行、開眼片脚立ちやFRの機能低下は、動的かつ高度なバランス能力や実用的な移動能力を評価できる指標の低下を意味している。このような詳細な運動機能の評価ならびに安定を目的とした理学療法が、介助量軽減、転倒予防、安全な生活に繋がり、在宅復帰をもたらすことが推測される。特に社会的背景の要因でなおざりにされている入所者を通所者として維持期を過ごしていただく可能性が示唆される。今後は、今回測定した通所者の各運動機能指標を目標に、段差や不整地の歩行やバランス練習や日常生活での歩行の機会を意識的に増やすことを検討していくつもりである。
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© 2005 日本理学療法士協会
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