抄録
【目的】
我が国における高齢化は急速に進み,同時に高齢者の介護状況も悪化し,これらを予防する観点から総合的なプログラムが求められている.高齢者の身体的機能維持のために日常生活での身体活動量を確保することは重要な要素である.一日の身体活動量を知り分析することは,日常生活上の問題点を抽出・改善するために有意義である.身体活動量の測定方法は多数あるが,今回用いる腕時計型行動記録計(ViM:Microstone社製,以下ViM)は前後方向の加速度計と肘が中心の回転を感知する角速度計が内蔵されている.手首に装着するのみで計測が簡便に行うことができ,対象者の日常生活の中で動作の制限なしに測定することも容易である.これまでもViMに関する妥当性の検討はなされてきたが十分とは言えなかった.そこで今回,若年者を対象として呼気ガス分析による酸素摂取量から換算した消費量を客観的基準とし,それに対するViMの関連性を比較・検討したので報告する.
【方法】
対象者は実験の意義・目的に同意をした四肢に整形外科疾患既往のない健常成人男性10名(年齢:19-24歳,身長:171.7±4.4cm,体重:63.9±7.1kg).被験者は呼気ガス分析装置(AE-280:ミナト医科学社製)のマスクとViMを装着した.被験者は端座位10分以上の安静後,トレッドミル上を2.4,3.6,4.8,6.0,7.2km/hの速度設定で,それぞれ3分間歩行あるいは走行した.歩行・走行は任意の動作とした.呼気ガス分析装置(ml/kg/min)とViM(kcal/kg/min)から得られたエネルギー消費量との相関分析を有意水準は5%として行った.またAltman-Plotを作成し2方法から検討を行った.
【結果】
呼気ガス分析装置からの消費量とViMの消費量との間に有意な相関関係が認められた(r=0.66、p<0.01).Altman-Plotは低値ではばらつきは小さかったが,高値ほどばらつきが大きくなった.
【考察】
以上の結果よりViMと酸素摂取量の間に有意な相関が示された.被験者には上肢の振りを規定しない歩行を求めたが,それにもかかわらず有意な相関を示したことは,トレッドミル上の歩行では特別な歩容を規定する必要性が低いと考える.一方ViMは全体的に過小評価する傾向も見られた.これは,ViMが感知できない部分もあったことが考えられる.Altman-Plotでは自由歩行の速度付近でばらつきが少なかった.これはViMの加速度計自体の精度と,角速度計の内蔵が計測精度を高くしていると考えられる.以上より,トレッドミル上での自由歩行の速度に関してViMは身体活動量を測定する機器として妥当性が示唆された.今後はこのViMを日常生活における身体活動量の評価指標として用いるための検討を行う必要性を感じた.