抄録
【はじめに】今回,後脛骨筋の痙縮により足関節内反を呈し選択的脛骨神経縮小術が施行された症例を経験し,術直後より患側前脛骨筋に対して筋再教育目的で中周波刺激を行った.そこで,中周波刺激が前脛骨筋の筋収縮と歩行能力に及ぼす影響及び,PETを用いた脳賦活試験による中周波刺激の上位中枢への影響について検討したので報告する.
【症例】右片麻痺を呈した55歳男性.診断:左被殼出血.発症7年経過.下肢Brunnstrom Stage4.Modified Ashworth scale(患側)後脛骨筋2,下腿三頭筋1.独歩自立,術前の歩行速度は51.6(m/min)であった.事前に口頭にて実験内容を説明して同意を得た.
【方法】選択的脛骨神経縮小術を施行した翌日より中周波刺激,運動療法を開始した(治療期間11日).刺激は日本メディックス社製M-STIM1010中周波筋刺激装置を用いて,患側の前脛骨筋に対し1回の治療時間を15分として1日2回行った.刺激周波数は30Hz,通電-休止の時間サイクルは5秒-10秒,強度は関節運動が起こり刺激痛の少ない範囲の刺激で行った.効果判定として,刺激前後で患側前脛骨筋の最大随意収縮を5秒間行わせMyoSystem1200s(Noraxon社製)を用いて表面筋電図を測定,その積分値(μV)を求めた.シート式歩行分析計ウォークウェイ(アニマ社製)を用いて最大努力歩行で歩行速度(m/min),ステップ長(cm),ストライド長(cm)を刺激前後で測定した.治療期間中,無作為に7回評価し,各評価項目は対応のあるt検定を用いて統計学的処理をした(有意水準を5%以下).PETを用いた脳賦活試験は,医師によるH215Oの静脈内投与後に患側前脛骨筋に対して中周波刺激(110秒間)を行い,刺激中に90秒間のscanを行った.3回の安静及び3回の刺激による負荷を交互に行い,脳血流の変化についてNEUROSTATを用いて統計学的に解析した(有意水準5%以下).PETの撮影は医師の指示のもと診療放射線技師が行った.
【結果および考察】中周波刺激後に患側前脛骨筋の積分値および患側ストライド長に有意な増加が認められた(P<0.05).本症例において刺激後に「歩きやすい」,「足が上がりやすい」との主観的評価が得られた.PETを用いた脳賦活試験で中周波刺激中に両側運動前野に有意な血流の増加が認められた(P<0.05). 今回,患側前脛骨筋への中周波刺激により上位中枢の賦活が認められ,刺激後で前脛骨筋の最大随意収縮の増加,歩行能力が向上することが確認できた.運動前野領域の体部位再現は運動野に融合する部位があることが報告されている.中周波刺激により左側運動前野の下肢領域が賦活され,患側足関節以外の近位関節にも効果が及び,歩行で患側ストライド長が増加したのではないかと考えた.