理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 90
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教育・管理系理学療法
リスク管理に関わるPTの臨床的感性の実験的研究
*石橋 晃仁吉尾 雅春西村 由香佐藤 文堀部 寛人土田 隆政
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抄録

【目的】我々は、時に判断を誤り、患者にとって不利益な事態を引き起こすことも考えられる。今回、健常者の安定性を崩す動作課題への反応の変化を予測することで、我々の臨床的感性や視点の傾向の一端を知るとともに、臨床教育や管理における課題を提起することを目的とする。
【方法】調査対象のPT11名(26.0±2.8歳、3.7±2.0年目)に、次の予測をしてもらった。予測対象の健常同僚職員8名(男性3名、女性5名、25.4±2.9歳)について、8段の階段を一足一段で降りる課題に対して、目隠しをすることで、どのように安定性が変化するかを、提示した程度の段階から予測し、いずれかを選択し質問紙に記入してもらった。安定性の程度Aは、開眼時と比べほとんど変わらずにスムーズに降りることができる。Bは、開眼時と比べやや遅いもリズミカルに降りることができる。Cは、開眼時と比べ遅く明らかなふらつきがあるも一足一段で降りることができる。Dは、途中でバランスを崩すなどにより一足一段の降段を維持できない、の4段階とした。予測対象は、健常スタッフ40名に、開眼時と目隠しをしての降段をランダムに実施し、ビデオカメラでの画像から、時間的要素と観察された現象を判断材料に、上記の各段階に当てはまる者を2名ずつ計8名選出した。予測と正答との一致度、各調査対象PT間の回答の一致度については、Kappa統計量を算出した。また、予測対象を、安定性のよいA,B群と、安定性の悪いC,D群に分け、予測回答の正答とのずれについて、カイ二乗検定をおこなった。
【結果】各調査対象の予測と正答との一致度は0.167、各調査対象間の予測の一致度は0.221で、ともに一致度は低かった。比較的安定性のよいA,B群に対して回答のずれが一段階以内であった回答数は40、二段階以上ずれた回答数は4、比較的安定性の悪いC,D群に対して回答のずれが一段階以内であった回答数は29、二段階以上ずれた回答数は15であった。これらの回答のずれについて、カイ二乗検定の結果、安定性の悪い群に対して、より良く予測されてしまう傾向が示された(p<0.01)。
【考察】各PTの正答との一致度、各PT間の一致度はともに低く、人の動作の変化に対する、臨床的感性や視点は、個々のPTによって異なる可能性が示唆された。また、回答のずれの結果からは、安定性に乏しいものを、実際よりも良く予測する傾向が示された。このことは、患者へのリスクの可能性にもつながると考える。例えば、治療中の患者との距離・位置のとり方や、一時的にその場を離れる際などの判断には、より慎重かつ適正な対応について、一考を要するのではないだろうか。また、卒前・卒後の理学療法教育の過程においても、知識や技術の修得はもちろんのこと、その対応に慎重さを求めながら、臨床的感性や視点を磨く必要があると考える。

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© 2005 日本理学療法士協会
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