理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 572
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理学療法基礎系
ラット脊髄損傷後の関節拘縮発生過程における関節構造の変性
*森山 英樹坂 ゆかり金村 尚彦今北 英高武本 秀徳本田 豊美吉村 理飛松 好子
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抄録

【目的】中枢神経損傷後の関節構造の変性として,関節滲出液,関節腔の狭小化,関節軟骨の菲薄化,異所性骨化,骨端部の肥大が報告されているが,これらの研究では拘縮との関連について述べられておらず,報告された変性と拘縮発生の因果関係を明確に説明するには不十分である.本研究の目的は,先行研究で確立したラット脊髄損傷拘縮モデルを用いて,拘縮の発生過程における関節構造の変性を形態学的および組織形態計測的に分析することである.
【方法】本実験は,広島大学の動物実験指針および広島大学医学部附属動物実験施設の内規に従って行った.16匹の8週齢 Wistar系雌性ラットを使用した.8匹の動物を実験群として,第8胸椎レベルで脊髄を完全に切断し,8匹の動物を対照群とした.実験開始後4,8,10,12週の期間に,各群2匹の動物を割り当て,各動物の左右膝関節を異なる標本として評価した.実験期間終了後,マイクロフォーカスX線拡大撮像システム µFX-1000を用いて,管電流 100 mA,管電圧 40 kV,照射時間 10秒の条件で,両後肢のエックス線像を得た.その後,4% パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝食塩水で還流固定を行った.膝関節と周囲の軟部組織を採取した後,さらに同じ固定液で4°Cにて18時間浸漬固定を行った.その後,10% エチレンジアミン四酢酸/0.1 M トリス塩酸緩衝液で4°Cにて42~89日間脱灰した.脱灰終了後,パラフィン包埋した.包埋した組織で,内顆中央部での5 µm厚の連続薄切を行い,サフラニンO・ファースト緑染色,トルイジン青染色を行った.O'Connor(1997)の方法に従い,大腿骨および脛骨の関節軟骨を,大腿骨前方,大腿骨後方,脛骨前方,脛骨後方の部位に分け,Trudelら(2005)の方法に準じて,軟骨細胞数,表面不規則性,軟骨厚の3つの指標で,関節軟骨の変性を評価した.統計解析は,二元配置分散分析を行った.有意な主効果か交互作用が認められた場合,下位検定として,単純主効果検定とサイダックのt検定による多重比較検定を行った.
【結果】関節部のエックス線像には,実験群と対照群で異なる所見は認められなかった.実験群の軟骨細胞数は,対照群と比較して,大腿骨前方では減少,大腿骨後方では増加していたが,脛骨では有意に異なっていなかった.大腿骨と脛骨の軟骨表面は,すべての実験期間で不規則であった.実験群の軟骨は,対照群と比較して,大腿骨前方でのみ厚くなり,大腿骨後方,脛骨前方,脛骨後方で薄くなった.
【考察】固定後の関節拘縮において,関節軟骨に多様な変性が生じる.本研究での脊髄損傷後の軟骨の変性パターンは,固定後に報告されたものとは異なり,脊髄損傷後の拘縮に特異的なものであった.軟骨の再生能力の考慮すると,本研究結果は,臨床において早期発見と特異的な治療の必要性を示唆する.

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© 2006 日本理学療法士協会
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