理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 622
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理学療法基礎系
三叉神経動脈遺残の一例
*荒川 高光寺島 俊雄
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抄録

【目的】三叉神経動脈は代表的な内頚-椎骨脳底動脈間吻合としてよく知られている。脳血管造影法によって三叉神経動脈は0.6%から1%の出現率で発見される。三叉神経動脈の遺残自体は緊急な対応を必要としないが、三叉神経動脈に動脈瘤が発生した場合は外転神経麻痺による複視がおこり治療対象となる(Nishio, 2001)。三叉神経動脈瘤の術後の状態を理解する上で、三叉神経動脈に関する解剖学的知見は理学療法士にとって重要な情報であるが、その解剖例はきわめて乏しい。われわれは神戸大学医学部人体解剖学実習において三叉神経動脈を持つ例を発見したため、その所見を報告し、その形態形成について考察する。
【方法】2005年度神戸大学医学部人体解剖学実習に供された78歳女性(死因:肺炎)の左側に三叉神経動脈が発見された。内頭蓋底および摘出脳を必要に応じて実体顕微鏡下で詳細に観察し、スケッチおよび写真にて記録した。内頭蓋底において海綿静脈洞および頚動脈管を一部開放して三叉神経動脈を起始部まで剖出し、さらに観察および記録を行った。
【結果】三叉神経動脈は内頚動脈が頚動脈管内口を出て海綿静脈洞に入る位置にてその外側面から分岐した。本動脈は内頚動脈から外側に分岐したあとすぐに後方に向きを変え、1cmほど後走したあと、外側に向きを変える。外側に走行する本動脈のすぐ上方に外転神経が走行する。さらに本動脈は外転神経の下を外側に横切ったあとすぐにまた後方に向きを変え、外転神経と三叉神経知覚根の間から硬膜を貫く。その後、橋の背側面と腹側面に橋枝を分岐し、脳底動脈へ連絡していた。脳底動脈は、右側においては上小脳動脈と後大脳動脈を分岐していたが、左側では上小脳動脈のみを分岐していた。左側の後交通動脈が発達し、内頚動脈と交通する中点から後大脳動脈が分岐していた。
【考察】三叉神経動脈の解剖例はQuain(1844)以来数例を認めるのみである。本邦では山田(1978)、熊木(1980)、小泉(1998)の報告がある。Salasら(1998)によって三叉神経動脈は外転神経の内側を通る内側型と外側を通る外側型に分類されているが、当例は外側型に属する。小泉(1997)は、遺残した三叉神経動脈から前下小脳動脈が分岐する例を報告しているが、当例において前下小脳動脈は通常通りであった。しかし当例では、後大脳動脈の分岐位置が左側のみ前方へと移動している。よって三叉神経動脈が遺残することにより後交通動脈および後大脳動脈起始部の形成に影響がある可能性が示唆された。

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© 2006 日本理学療法士協会
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