理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 676
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理学療法基礎系
Mirror therapyによる大脳皮質の賦活効果(錯覚現象)に関する検討
*今井 樹潮見 泰蔵谷口 敬道
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抄録

【目的】近年,脳卒中患者の機能回復に対するアプローチの一つとして,Mirror therapy(以下,MT)が脚光を浴びている.MTとは,Ramachandranが幻肢痛患者に対するアプローチに用いたことが紹介されて以来,脳卒中患者の上肢機能回復の手段としても応用されるようになった.しかしながら,脳卒中患者に対するMT効果の有無に関する臨床報告はなされてきているものの,基礎的な検討に関する報告は少ない.そこで本研究では,健常者の両手に対してMTを行い,錯覚現象がすべての健常者に起こるものか否かを明らかにすること,さらに機能的近赤外線スペクトロスコピー(以下,fNIRS)を用いることにより大脳皮質(感覚運動領域)の賦活が生じているのかについて明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は右利きの健常成人8名(男性2名・女性6名,平均22.7歳)であり,MTを行う前にfNIRS(ETG4000,日立メディコ)の電極を頭部に貼付した.初めに,対象者は鏡を装着していないMirror boxの中に両手を入れ,右手を電子メトロノーム音(1Hz)にあわせて20秒間軽く握離動作を行い(左手は不動;能動的に動かさないよう指示),次に40秒間安静をとる過程を計3回行い,この間の大脳皮質の酸素化へモグロビン量(oxy-Hb)を測定した.この間,対象者は常に左手(不動)を凝視しているよう指示した.次に,鏡を装着し,鏡に映った右手を見ながら同様に握離動作を行い,oxy-Hbを測定した.その後,左手についても右手と同一条件で測定を行った.大脳皮質の賦活の程度については,fNIRSにより得られたoxy-Hbの最大値を求めることで比較検討した.なお,錯覚現象の有無については測定後,対象者から聴取した.
【結果】対象者8名中5名にMTによる錯覚現象が生じた.MT(鏡使用の条件下)にて右手による握離動作をした場合,右大脳皮質にのみ有意な活動増加が認められた(p<0.05).
【考察】本研究の結果から,すべての人にMTによる錯覚現象が生じるわけではないことが示唆された.この理由として,個人のこれまでの経験(鏡の使用頻度,左右対称な動作に慣れていること等)も関与していると考えられた.注目すべきことに,錯覚現象を生じなかった対象者でも大脳半球の活動性は増加していた.このことは,MTにより錯覚現象を生じないことが必ずしもMTの適用外となることを意味するものでないことを示している.MTは右手を握離した場合には,主に同側の右大脳皮質の活動が増加した.先行研究では,右半球損傷患者に対する効果が示されており,今回の結果はこのことを裏付けるものと考えられた.以上のことから,MTは感覚運動領域と視覚などによる入力との間に緊密な関係があることが示唆された.
【まとめ】MTによる錯覚現象は,すべての人に必ずしも生じるわけではないことが示唆された.また,右利きの対象者がMTにて右手を動かした際,同側である右大脳皮質(感覚運動領域)が主に活動することが明らかとなった.

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© 2006 日本理学療法士協会
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