抄録
【目的】近年, 歩行障害を有する患者に対する歩行トレーニングとしてハーネス式の部分荷重システム(Body Weight Supported以下BWS)を用いたトレッドミル歩行トレーニングが注目を集めている。BWSは歩行の荷重量を低下させることにより、低負荷高頻度でトレーニングが行える利点を持つとされる。このためBWSによって、どの程度、運動強度を低下させることができるかを知ることは重要である。また、体重を支持するためのハーネスが胸郭を圧迫することから、換気量に影響を及ぼす可能性は否定できないが、免荷量と換気量との関係については明確ではない。本研究の目的は、BWS歩行の免荷量と酸素消費の関係を調べるとともに、換気量に与える影響を明確にすることである。
【方法】対象は健常成人9名(男性5名、女性4名、平均年齢23.0±2.3歳)とした。平均身長は166.8±7.6cm、体重は55.9±5.3kgであった。トレッドミル上で4kmの速度で歩行を行い、免荷量を変化させて測定を行なった。部分荷重にはハーネス式の体重免荷装置(BIODEX社製アンウェイングシステムBDX-UWS)を用い、安静立位と通常歩行および0から50%免荷で歩行を行なったときの呼吸状態と酸素摂取量を測定した。呼気ガス測定にはCotex社製MetaMax3Bを用い、一回換気量(以下VT)、分時換気量(以下VE)、酸素消費量(以下VO2)、VO2の体重比(VO2/W)および呼吸数を測定した。BWSによる酸素消費量と呼吸状態の変化を反復測定分散分析により、有意水準5%で比較した。
【結果】VO2およびVO2/Wは免荷量に伴って有意に減少した(VO2:p<0.01、VO2/W:p<0.01)。通常歩行と比較した減少率は10%免荷で7.6%、20%免荷で7.8%、30%免荷で11.0%、40%免荷で14.4%の減少を示した。しかし50%免荷歩行では14.3%とほぼ40%免荷と同様の値となった。一方、VT、VE、呼吸数などの換気状態に対して、免荷量はほとんど影響を与えていなかった。
【考察】Colbyらは20%の体重免荷により6%, 40%の体重免荷により12%の酸素消費が減少したとしており, Danielssonらは30%の体重免荷により9%程度の酸素消費の減少が得られたとしている。本研究で得られたVO2の低下も同程度であり、酸素消費の減少はBWSの重要な特徴であることが示された。しかし、一方で40-50%のように高い免荷量では姿勢が不安定となり、VO2が変化しない可能性があることも示唆された。また、免荷量の増加により換気状態の変化は認められず、高い免荷量の設定であってもハーネスによる圧迫は換気状態に影響を与えるほどではないことが確認された。