抄録
【目的】本研究では、歩行能力を反映する10m最大努力歩行時間、最大努力でのTimed Up & Go(TUG)、10m最大努力障害物歩行時間について、高齢者を対象としたこれらの歩行能力に関与する運動機能要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は自立した生活を行っている高齢者(60~84歳)15名とした。対象者には本研究の趣旨を説明し同意を得た。歩行能力の測定は、(1)10m最大努力歩行時間、(2)最大努力でのTimed Up & Go(TUG)、(3)10m最大努力障害物歩行時間の3項目とした。運動機能の測定では、60deg/sの最大膝伸展筋力(PK)、足関節背屈角度、体前屈、片足立位保持時間、立位重心動揺(実効値)、Functional Reach Test(FRT)、反応時間(光刺激から前脛骨筋収縮までの時間)の7項目とした。歩行能力と各運動機能との関係性を確認するための分析には、Pearsonの相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。
【結果】歩行能力測定3項目間には有意な相関関係が確認された((1)-(2):r=.794、(1)-(3):r=.838、(2)-(3):r=.815;p<.05)。この3項目に共通して有意な相関関係が認められた項目は、PK、足関節背屈角度、最大一歩幅であった((1):r=-.660、r=-.709、r=-.788、(2):r=-.665、r= -.618、r=-.779、(3):r=-.739、r=-0.584、 r=-.564;p<.05)。その他、(2)TUGおよび(3)10m最大努力障害物歩行と片足立位保持時間に有意な相関関係が認められた((2):r=-.559、(3):r=-.615;p<.05)。また、体前屈と立位重心動揺(実効値)、FRTにおいては、いずれも歩行能力測定3項目との間に相関関係は認められなかった。FRTとPK・足関節背屈角度・片足立位保持時間・体前屈には有意な相関関係が認められた(r=.548、r=.665 、r=.580、r=.609;p<.05)。反応時間と歩行能力の間に有意な相関関係は認められなかった。
【考察】(1)10m最大努力歩行時間、(2)最大努力でのTimed Up & Go(TUG)、(3)10m最大努力障害物歩行時間に共通して、PKおよび足関節背屈角度、最大一歩幅との有意な相関が確認されたことより、歩行能力において下肢筋力と足関節の柔軟性が重要な要素であることが確認された。また、最大一歩幅は、歩行能力測定3項目と相関のあるPKと足関節背屈角度との相関関係が認められたことから、この測定方法によって歩行能力を推測できる可能性が示唆された。また、FRTにおいては、歩行能力測定3項目との相関関係は認められなかったが、FRTと相関関係が認められたPKと足関節背屈角度および片足立位保持時間は、TUGと10m最大努力障害物歩行時間に共通して相関関係が認められた。このことから、FRTは応用的な歩行能力における下肢筋力と足関節の柔軟性および静的バランス能力の要素を分離して判定できる可能性が示唆された。