抄録
【目的】自転車駆動や走行などのリズミカルな運動中には,呼吸のリズムが運動のテンポに引き込まれる現象が起こることがあり,この現象はLocomotor Respiratory Coupling(以下,LRC)と呼ばれている。我々はこれまでLRC現象が発生することによる生理学的意義について検討をしてきたが,運動中におけるLRC現象の発生は生体に有益な効果をもたらすと考えられる。そこで本研究では、LRCを意図的に誘発したペダリングトレーニングの有効性を検証することを目的とした。
【方法】呼吸器、循環器に疾患を持たない健常成人18名(男性15名、女性3名)を対象とした。各対象者に対して予め最大運動負荷試験を実施し,呼吸困難感が中等度に至るまでの時間(Borg 3 time)、最大負荷量(W)、VO2maxを測定した。そして全身持久力をある程度均等化した各6名の3群に分かれてトレーニングを実施した。各群は1)LRCを意図的に誘発したペダリングトレーニング群(以下、LRC群) 2)自然呼吸でのペダリングトレーニング群(以下、NT群) 3)コントロール群(以下、C群)とした。LRC群は我々が独自に開発した運動-呼吸同調システムを搭載したStrength Ergo240を用い,NT群は通常の自転車エルゴメーターを使用してトレーニングを行った。トレーニングは予め測定したVO2maxの60%の負荷で1日20分、週3日、3週間実施した。C群は3週間、通常の日常生活動作のみで特別なトレーニングは行わなかった。トレーニング前後において定負荷運動時(60%VO2maxで5分間)におけるLRC発生率および換気効率を,さらに最大運動負荷試験によって最大負荷量(W)、VO2max,Borg 3timeを測定し,比較検討した。尚,全ての被験者に対して本研究の説明を行い、同意を得た上で実施した。
【結果】 VO2maxは全ての群においてトレーニング前後で有意な差は認められなかった。
最大負荷量、LRC発生率はトレーニング前後においてLRC群では有意に増加が認められたがNT群、C群では有意な差は認められなかった。Borg 3timeはトレーニング前後でLRC群において有意な増加が認められ,NT群においては増加する傾向が認められたが,C群では有意な差は認められなかった。VE/VO2はトレーニング前後でLRC群において有意な低下が認められたがNT群,C群では有意な差は認められなかった。
【考察】本研究の結果から,LRCを意図的に誘発したペダリングトレーニングによってLRC現象の発生率は上昇し、運動中の呼吸困難感軽減や換気効率の改善など呼吸循環応答にも好影響を及ぼすことが明らかになった。以上からLRCを意図的に誘発したペダリングトレーニングは自然呼吸でのペダリングトレーニングに比べて有効であることが示唆された。