理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 46
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神経系理学療法
意欲向上がADL改善に結びついた頭部外傷の一症例
*藤井 真紀石渡 和美平譯 麻理
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キーワード: 頭部外傷, 意欲, 外出
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抄録

【はじめに】
頭部外傷の後遺症は、多種多様な症状を呈し、予後が長期的に変化すると言われている。今回受傷後1年経過し、外出などをきっかけにADLが改善した一症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
 60歳女性、平成16年4月18日交通事故で病院へ救急搬送される。頭部外傷、肺挫傷、右膝挫滅傷と診断され治療、リハビリテーションを受ける。平成17年3月2日療養型病院転院、同年4月15日当苑入所となる。家族構成は夫と二人暮らしである。キーパーソンは娘と夫であった。入所時評価は、右片麻痺Brunnstrom recovery stage(以下B.R.S.)上肢3手指4下肢4、HDS-R12点、起居動作は見守りから軽介助、端坐位保持不安定、ADLはBarthel Index(以下BI)10点、排泄全介助、移乗半介助、移動は車椅子自立であった。坐位バランス向上、移乗動作介助量軽減を目標とし、理学療法を開始した。
【経過】
理学療法開始当初は腰痛や右膝痛を訴え、意欲低下が認められ、生活場面でもほぼ臥床している状態であった。6月中旬自宅トイレ及び風呂等のリフォームの検討、受傷後初めて趣味である水墨画展への外出を行った。その頃より自らトイレへ自分で行けるようになりたいと発言し、時間になると自分で訓練室へ来たり、自分で靴を脱ぐという意欲的な行動が見られ始め、腰痛や右膝痛による拒否的な訴えは少なくなった。それを受け、自宅トイレ同様の環境設定で移乗訓練を開始、時間はかかるが見守りで可能となった。8月には数回の自宅外出が可能となった。一日の臥床時間も短くなり、新聞を読む場面も見られるなど更なる意欲の向上が見られた。9月には自宅リフォームが完成したため正月の外泊を目標に週1回御本人、御家族、介護士、PTで外出、外泊訓練を自宅で行い、トイレ、入浴が御家族の介助により行えるようになった。現在週1回の頻度で自宅外出が可能となり、正月には外泊を行う予定である。HDS-R25点、起居動作見守り、端坐位保持安定、ADLはBI50点、排泄は移乗見守り、衣服の上げ下ろしに体を支える介助が必要な程度となった。
【考察】
 諸家の報告では頭部外傷は身体機能障害より認知機能障害により家族への受け入れ、社会復帰が阻まれる症例が多い。しかし長期的に予後が変化していく症例も多いと報告されている。本症例も受傷から1年経過後入所し、当初は何に対しても意欲低下が認められ、臥床傾向であったが、自宅リフォームや外出をきっかけとして意欲が向上し、家族の協力も得られたことにより生活範囲が広がったと考えられる。今後は正月外泊、在宅復帰を目標としているが、その際には娘だけではなく夫の介護力が重要となってくるため、夫に対する介護指導も考慮した支援が必要であると思われる。

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© 2006 日本理学療法士協会
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