理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 47
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神経系理学療法
Central post-stroke pain を示した症例の治療経験
*白井 誠永井 茜
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抄録

【はじめに】橋出血後にcentral post-stroke pain(以下CPSP)を示した症例の治療経験をした。右片麻痺・失調症を呈し、第53病日から右手掌にアロディニアが出現、右手の使用不能となった。治療は上部体幹・右上肢手の過剰努力固定に対して、姿勢の安定化、手の識別能力改善を実施した。第68病日アロディニアがほぼ消失、補助手となった。この経過およびアロディニアに関する考察を報告する。
【症例紹介】69歳、男性、右利き、診断名:橋出血後右片麻痺・失調症、現病歴:200X年4月7日意識障害で発症、同日当院脳神経外科に入院、橋出血の診断となり保存的治療を受けた。第4病日理学療法(以下PT)・作業療法(以下OT)開始、意識レベルは2桁であった。第8病日気管切開、第18病日意識レベル1桁、第32病日意識清明、車椅子離床可能となった。感覚検査では右半身重度鈍麻、右手掌は脱失していた。第34病日カニューレ抜去、リハ室での治療を開始した。第50病日右手掌の感覚中等度鈍麻に改善、右手把持・つまみ可能、軽介助で立位が可能となった。第53病日右手掌にアロディニアが出現し、右手の使用不能となった。
【第53病日:評価】コミュニケーション正常、車椅子レベルADL中等度介助、右上下肢の粗大運動可能、手指は分離運動可能であった。失調症により立位姿勢維持能力低下し、上部体幹屈曲位での過剰努力固定を示した。上部体幹伸展位維持を介助すれば5m歩行可能であった。右半身の感覚中等度鈍麻、手掌にアロディニアを示し、右手の使用不能であった。端坐位での右上肢手運動パターンは上部体幹屈曲・肩甲骨下制前方突出と手指MP屈曲IP伸展位での過剰努力固定の組み合わせが優位であった。
【治療】PTでは立位で上部体幹屈曲に対して分節的伸展回旋を促しながら、過剰努力ではない自律的伸展位姿勢維持を促通した。OTでは坐位で右肩甲骨下制前方突出に対して体幹分節的伸展回旋を促しながら、肩甲骨のアライメントを中間位に修正した。肘の分離運動へ展開し、肩の安定に対する筒握りを重量感覚の識別をさせながら促通した。これらの治療展開に伴って右手掌のアロディニアが軽減した。PTでは交互歩行器歩行、OTでは手の押さえやつまみ動作の獲得へ進めた。
【第68病日:結果】1回40分間の治療をPT10回、OT11回実施後、アロディニアがほぼ消失した。食器の押さえや衣服のつまみが可能となった。また、交互歩行器を操作し室内歩行が可能となった。第69病日リハ専門病院へ転院した。
【考察】CPSPは脊髄視床路の損傷による求心路遮断痛に分類され、神経系の可塑的変化が原因とされている。治療経過から、姿勢維持と手の識別の促通による過剰努力固定軽減に伴いアロディニアの改善が得られた。求心路遮断による神経系の可塑的変化に対して、過剰努力ではない感覚運動経験を促通することが有益と考えられた。

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© 2006 日本理学療法士協会
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