抄録
【目的】人工呼吸器を装着し、長年ベッド上生活を送る筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者を担当し、理学療法の一つとして四肢の関節可動域運動(ROM-ex.)および検査(ROM-t.)を行った。開始当初いずれも自動運動不能であり、既に中~重度の四肢関節拘縮を呈していたが、若干の改善がみられたので報告する。【方法】対象はALS患者6名。男性3名。女性3名。年齢22~77歳。人工呼吸器装着年数平均4.7年。方法としてROM-ex.を、週1または2回の20分間、1年4ヶ月実施し、約3ヶ月毎に四肢のROM-t.を行った。【結果】開始当初平均ROM(最低値~最高値)は、肩屈曲右42.5±13.1°(25~65)左35.8±7.9°(20~45)、肩外転右55±13.5°(30~70)左51.7±8.0°(40~65)、肘屈曲右93.3±25.9°(65~145)左85±8.2°(75~100)、手背屈右27.5±39.1°(-60~45)左34.2±11.3°(15~50)、股屈曲右55±7.1°(40~60)左48.3±6.9°(35~55)、股外転右22.5±6.3°(15~30)左16.7±6.2°(10~30)、膝屈曲右61.7±21.1°(30~95)左59.1±21.5°(30~90)、膝伸展右-7.5±7.5°(-20~0)左-4.2±3.4°(-10~0)、足底屈右65.8±3.4°(60~70)左60.8±6.1°(50~70)であった。改善がみられたのは各症例以下の通り。症例A:左肩屈曲40°→45°(開始時から1年3ヶ月経過)症例B:左肩屈曲35°→60°(1年)、右肩外転60°→70°(6ヶ月)、左股屈曲50°→60°(6ヶ月)症例C:左肩屈曲35°→40°(6ヶ月)症例D:右肩屈曲30°→45°(8ヶ月)、左肩屈曲45°→50°(3ヶ月)、左股屈曲45°→60°(3ヶ月)症例E:左肩外転55°→65°(6ヶ月)、症例F:右肩屈曲25°→35°(6ヶ月)、左肩屈曲20°→50°(8ヶ月)、右膝屈曲75°→90°(6ヶ月)、左膝屈曲70°→75°(6ヶ月)。【考察】6症例とも中~重度の拘縮があり、開始当初は改善困難と思われた。日頃のベッド上のポジショニングは、30~45°傾斜のギャッチアップ、左右の30°側臥位、背臥位(両肩内旋、前腕回内、下肢伸展位)である。この肢位に合わせた関節の可動範囲になった結果と考えられる。一方、6例中5例の肩関節屈曲で改善がみられた。これは肩関節が他に比べて体位交換、着替え時に動かされやすい関節であり、かつ運動学的にも自由度の大きい関節であるため、関節包内軟部組織・肩関節周囲筋の伸張性が維持されていたためと考える。治療効果も開始から6ヶ月ぐらいにかけて出現したが、その後は現状維持であった。ただ今後もROM-ex.を続けなければ進行も予想される。【まとめ】長期臥床で中~重度の関節拘縮を呈するALS患者のROM-ex.を行った。即効性はないが、肩関節で改善がみられた。今回改めて拘縮が進行する前段階での、ROM-ex.、ポジショニング等の予防対策の重要性を痛感した。