抄録
【目的】脳外科術後の早期起坐・起立は、廃用症候群の防止・改善のために重要なプログラムの一つである。しかし、近年早期起坐・起立の開始時に痛みを訴える症例が多く、痛みの要因がわからずPT継続の判断に迷う症例に直面することがしばしばある。今回、脳外科術後患者の早期PT施行時に生じた痛みの要因を調べ、検討したので報告する。
【対象・方法】2007.4~2007.10まで当院脳外科で手術が適応され、PTが施行された患者28例のうち早期PT施行時に痛みを生じたA群(17例)と痛みを生じなかったB群(11例)。両群を以下の項目で比較・分析した。(1)年齢(2)性別(3)疾患(4)痛みが生じたときの状態(5)痛みの部位(6)痛みが消失したときの状態
【結果】(1)年齢は、A群平均年齢63.2(17~87)歳、B群平均年齢73.4(63~89)歳で有意差は認められなかった。(2)男女による違いは、A群 男性6例・女性11例 B群 男性9例・女性2例であり、有意差は認められた(3)疾患はA群くも膜下出血(以下SAHと略)8例(男性2例、女性6例)慢性硬膜下血腫(以下CSDHと略)2例脳出血4例水頭症1例その他2例 B群SAH1例CSDH6例急性硬膜下血腫2例水頭症2例であった。A群はSAHが大半を占めるのに対して、B群は、CSDHが大半を占めた。(4)PT開始時の状態においてA群は、ドレーンが留置している症例が87%を占めたのに対しB群は、PT開始時には抜去している症例が75%で大半を占め、PT開始時留置例は25%のみであった。A群はB群と比較して活動制限があり、2群間で有意差が認められた。(5)痛みの部位は、主に起坐時の腰部痛が13例、頭部痛3例、頸部痛1例であり、立位時の膝部の痛みも3例あった。また、痛みは、起座など抗重力位にすることによって生じ、ROMex、マッサージ施行時の痛みは観察されなかった。(6)痛みは、起坐・起立練習が進行するにつれて徐々に減少する症例が、11例で大半を占めたが、突然消失する症例も4例あった。
【考察】痛みは、抗重力位の姿勢でPTを施行したときに誘発されることが大半を占め、疾患としては、術後ドレーンなどを留置された症例に多い傾向を示した。ドレーンの留置期間内は、ドレーン管理のため持続的に臥床状態の時間が長くなり、その結果、模擬無重力状態になる、このため抗重力筋に対する筋萎縮が生じることが予測される。今回の痛みは、萎縮した抗重力筋が重力環境へ戻るために生じた痛みであると推測する。また、女性に痛みを訴える症例が多いことは、SAHが男性よりも女性に多い疾患であり、術後の活動制限環境が痛みの要因と考える。痛みは、活動の上昇とともに軽減する傾向を示すことから、術後早期から起坐・立位などの抗重力位の姿位をとらせることは、模擬無重力環境への適応期間を短縮させ、痛みの軽減につながると考える。