抄録
【はじめに】脳血管障害や脳性麻痺などにおける足関節の痙縮に対し,各筋の支配する神経の太さを縮小し痙縮を抑制させる手術として選択的脛骨神経縮小術がある.当院では2002年より13症例が施行され,それら症例の理学療法を経験した.今回,歩行自立していた10症例において選択的脛骨神経縮小術による痙縮および歩行速度の変化から手術効果を検討した.
【対象】対象は2002年から2004年8月の間に選択的脛骨神経縮小術を施行された脳血管障害および頭部外傷による片麻痺患者10名〔平均年齢52.3±13.6歳,平均発症後経過(手術施行当時)5.0±7.4年,男性9名,女性1名,麻痺側:右側5名・左側5名,患側下肢Brunnstrom stageは3:8名,4:1名,5:1名〕であった.事前に口頭による十分な説明を行い,同意を得た.歩行様式は症例によりT字杖の使用や装具装着の有無が混在し異なっていた.手術内容は症例の臨床症状で異なり,手術の対象となった痙性筋は下腿三頭筋(9名),後脛骨筋(1名)であり,それら痙性筋の末梢神経の分枝が縮小された.
【方法】臨床評価は,患側の下腿三頭筋または後脛骨筋の痙縮をModified Ashworth scaleを用いて評価し,歩行速度(m/min)は10 m 歩行時間から算出した.評価は術前と術後1週で行った.統計処理は,痙縮でWilcoxonの符号順位検定,歩行速度でt検定を用いて検定し,有意水準を5%未満とした.
【結果】患側の下腿三頭筋および後脛骨筋の痙縮において,Modified Ashworth scaleのGrade(平均値)が術前2.3から術後1週0.5となり,有意な減少を認めた(p<0.01).歩行速度において,症例間でばらつきがあるが,歩行速度(平均値±標準偏差)が術前29.1±14.1(m/min)から術後1週38.4±21.7(m/min)となり,有意な増加を認めた(p<0.05).術前と術後の歩行速度変化が10(m/min)以上ある症例を1群(n=4),それ以下の症例を2群(n=6)として群分けをした.術前・術後の歩行速度(平均値)では,1群が術前41.6(m/min)から術後62.3(m/min),2群が術前20.9(m/min)から術後22.5(m/min)となり,1群と2群で改善の程度が異なっていた.術前の歩行様式は1群の全症例が杖なし歩行,2群の全症例がT字杖歩行であった.
【考察】全症例で痙縮が軽減し,歩行速度の増加が認められた症例もいた.全症例において術後に歩きやすさを自覚しており,この手術が効果的であったと考える.術前と術後の歩行速度変化の1群では,術前の歩行速度が2群より大きくなっていた.このことから術後における歩行速度の改善一因子として,術前の歩行能力が影響を及ぼすのではないかと考えられた.