理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 76
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神経系理学療法
片麻痺例における傾斜視覚指標に対する座位姿勢制御の分析
*大隈 統高倉 保幸高橋 佳恵大住 崇之小牧 隼人河原 育美草野 修輔山本 満陶山 哲夫網本 和
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抄録

【目的】姿勢制御には視覚による認知の影響が大きいと考えられている。CVA患者では周囲の環境から垂直を認知する視覚的垂直定位(以下SVV)が障害され、姿勢制御に影響するとの報告がある。今回は視覚指標を用いてSVVと坐位での身体軸傾斜角度を測定し、脳損傷後の視覚的認知と姿勢制御の関係を検討した。

【方法】当院でCVAと診断されPT施行中の症例のうち、右利き・坐位保持監視レベル以上・指示理解可能であり、研究について説明し同意書に署名を得た14例。右片麻痺7例(47.3±14.6歳)、左片麻痺7例(60.7±11.9歳)、測定は41.8±29.5病日であった。線分2等分線と線分末梢課題にて半側無視を認めた症例はいなかった。被験者は暗室で上下肢非支持の端座位とし、前方の視覚指標を注視させた。C7とL4棘突起に反射マーカーを貼付、後方からビデオ撮影し身体軸の傾斜角度を求めた。課題1は回転する視覚指標を主観的な鉛直位に定位させ、実際の鉛直線からの傾斜角度を測定した。課題2は15°傾斜位で固定された視覚指標に体幹を傾斜させ、主観的に一致する位置での身体軸傾斜角度を測定した。各課題は左右計8施行し、視覚指標と身体軸傾斜角度の平均値と変動係数を求めた。統計学的検定は対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。なお、本研究は埼玉医科大学及び首都大学東京の倫理委員会にて承認された。

【結果】課題1での平均値は右片麻痺例0.9°変動係数1.6、左片麻痺例の平均値0.6°変動係数3.8であった。麻痺側間では平均値に有意差はなかったが、変動係数は左片麻痺例で有意に大きかった。課題2では平均値において全14例中5例に身体軸傾斜角度に有意な左右差があった。右片麻痺例2例はいずれも麻痺側への傾斜が小さく(左傾斜11.5±1.1、右傾斜‐3.5±1.5)、左片麻痺3例のうち2例は麻痺側への傾斜が大きかった(左傾斜13.5±0.2、右傾斜3.7±0.2)。さらに左片麻痺で麻痺側への傾斜が大きい2例のうち1例は安静時より麻痺側に傾斜していた。

【考察】SVVの平均値は垂直性の傾斜傾向を、変動係数はその動揺性を示すと考えられる。SVVの平均値の異常は2°以上といわれているが、今回は全例2°未満であった。変動係数は左片麻痺例で有意に大きく、視覚的な空間認知が障害されている傾向を認め、過去の研究結果を支持するものであった。課題2では傾斜角度に有意差があった症例について、右片麻痺例は安静時より非麻痺側へ傾斜しており麻痺側への傾斜が困難と考えられた。また左片麻痺例には安静時より麻痺側へ傾斜しているため、見かけ上の麻痺側への身体軸傾斜が可能な症例がいたと考えられる。本評価法を通して、症例の姿勢制御の特徴を捉えられる可能性が示唆された。今後は症例の集積や、認知の前提としての意識障害・注意障害等の因子との詳細な検討が必要と思われた。

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© 2006 日本理学療法士協会
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