理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 95
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作における運動力学的戦略と身体機能との関連
*五十嵐 勇樹小川 奈保菊地 豊藤本 幹雄
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抄録

【はじめに】片麻痺者の立ち上がり動作は健常者と比べて安定性や効率に欠ける。その要因の一つとして離殿が適切に行えないことが臨床場面で多く観察される。今回、片麻痺者の立ち上がり動作について離殿時の運動力学的分析を行い、身体機能との関連から動作の安定や効率に影響を与える因子を検討する予備的研究を行った。
【方法】当院入院中の脳卒中片麻痺者17名(年齢66.7±8.1、右片麻痺5名、左片麻痺12名、81.5±44.8病日)を対象とした。計測には床反力計(KISTLER社製)を4枚用い、前方2枚に裸足にて足部を肩幅に合わせて接地し、後方2枚に40cm高の椅子を設置した。上肢の支助なしで自由な立ち上がり動作を行わせ、床反力計のサンプリング周波数を120Hzとして計測した。後方2枚の床反力Z成分が0Nmになるところを離殿と定義し、離殿時の床反力鉛直成分・前後成分の最大値を体重で正規化した値(Fzmax、Fymax)と全荷重量に対する麻痺側荷重量の比率(Fz比率、Fy比率)を算出した。身体機能との指標として、Stroke impairment assessment set(SIAS)を測定した。床反力より求められた運動力学的データと身体機能との関連性をSpeamannの順位相関係数を用い求めた。
【結果】非麻痺側のFzmaxについてSIASの上肢運動スコア(r=‐0.566)、Hip Flexion(r=‐0.568)、Knee Extension(r=‐0.632)、Foot Pat(r=‐0.654)、下肢位置覚(r=‐0.581)、腹筋力(r=‐0.589)の項目において有意な負の相関を認めた。Fz比率についてもFoot Pat以外ほぼ同様の結果が得られた。非麻痺側のFymaxはSIASのFoot Pat(r=‐0.538)の項目と有意な負の相関を認めた。それ以外については有意な相関は認められなかった。
【考察】立ち上がり動作を安定かつ効率よく行うには、十分な前方への重心移動と上方への推進力を利用することが必要とされる。片麻痺者は体幹や麻痺側足関節運動による前方推進力が弱く、離殿直前までの前方への重心移動が困難となる。そこで十分な前方重心移動が起こらないまま、非麻痺側下肢による上方への推進力を用いて、引き上げるような立ち上がり戦略をとっているものと考えられた。また、麻痺側下肢は運動・感覚機能の低下により離殿直後の支持が乏しく、非麻痺側下肢の運動機能に依存した荷重量の調節を行っていると考えられた。以上より、片麻痺者の立ち上がりは動作戦略が麻痺側身体機能に影響を受けることが示唆されたが、症例数を増やし、他の運動学的要素を踏まえた検討が必要である。

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© 2006 日本理学療法士協会
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