理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 96
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者の立ち上がり動作での身体重心運動量制御におけるdual-taskによる影響
*後閑 浩之邑口 英雄臼田 滋
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抄録
【目的】運動制御は環境や運動課題によって制約される。立ち上がり動作は,日常では物を持ちながら立ち上がるなどの運動課題を伴うこと(dual-task)が一般的である。本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者での非麻痺側上肢で物を持つ運動課題が立ち上がり動作の身体重心運動量の制御に及ぼす影響を検討することである。
【方法】対象は,脳卒中片麻痺患者10名であり,男性8名,女性2名,右麻痺4名,左麻痺6名,平均年齢は64.0±6.3歳であった。立ち上がり動作の開始姿勢は,下腿を床面に対して垂直とし,殿部の深さを統一して,対象の快適な速さで実施した。座面の高さは40cmとした。測定課題は,手に物をもたないcontrol課題,片手課題(A:非麻痺側の手に空のコップ,B:50%の量の水の入ったコップ,C:90%の量の水の入ったコップ),の計4条件とし,施行順序は無作為とした。動作解析には,三次元動作解析装置MA2000S(アニマ社製)を使用し,利き手側の外耳孔前,肩峰,大転子,大腿骨外側顆,外果,第5中足骨骨頭,上腕骨外側上顆,橈骨・尺骨茎状突起の中点に反射マーカーを貼付した。マーカーの空間座標から,4体節モデルを用いて身体重心を算出した。測定課題の分析の指標は,立ち上がりに要する時間(Time),身体重心の水平方向最大運動量(M-Horiz),垂直方向最大運動量(M-Vert)とした。同様に下肢のBr.stge,歩行能力を計測した。dual-taskによる影響を,control課題を含めた4条件での各指標の差を反復測定による一元配置分散分析と多重比較を用いて分析した。有意水準は,5%未満とした。
【結果】control課題のTimeは平均2.9±1.3秒で,M-Horizは24.3±8.2 kg・m/s,M-Vertは27.6±11.6 kg・m/sであり,%T-Horizは27.5±8.7%,%T-Vertは51.7±8.0%であった。片手課題A,B,CのTimeは2.8±1.3,3.4±1.5,3.2±1.0秒であり課題間に有意な差は認められなかった。M-Horizはそれぞれ25.1±8.8,24.7±10.3,22.0±8.4 kg・m/s,M-Vertは27.7±11.8,27.7±10.8,22.5±6.3 kg・m/sと有意な差を認めなかった。今回の対象においては,課題の追加により,Timeが短縮するもの,M-HorizあるいはM-Vertが増加するものが観察された。
【考察】過去の研究において健常者における立ち上がり動作は,dual-taskによりTimeの延長と身体重心運動量の減少を認めたが,脳卒中片麻痺患者においてはその影響が対象によって異なることが示唆された。これは,対象者の情報処理やモニタリング機能,姿勢調節に用いる戦略,経験などによると推察される。
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© 2006 日本理学療法士協会
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