抄録
【目的】Functional Balance Scale(以下FBS)は総合的なバランス能力の評価方法であり、国際的にも信頼性と妥当性が認められている。これまでにもFBSとADL能力との関連についての研究は行われているが、ADL能力の指標にFunctional Independence Measure(以下FIM)の合計点を使用していることが多く、各ADL動作との関連については明らかではない。病棟での活動範囲を設定する際、各ADL動作の自立度判定に明確な基準はなく、その決定に苦慮することがある。そこで今回我々は、各ADL動作に対しどの程度のバランス能力が必要であるのかを明らかにするため、FBSと各ADL動作の関連について検討し、更にFBSの得点からADL動作の自立度予測を試みた。
【方法】対象は平成17年6月から10月までに当院回復期病棟に入院した脳卒中患者のうち、HDS-R16点以上の40例で、平均年齢は62.1±17.3歳、性別は男性20名、女性20名、診断名は脳梗塞30名、脳出血8名、くも膜下出血2名であった。対象患者には本研究の趣旨を説明し同意を得て行った。
ADLの評価は食事、整容、清拭、更衣、排泄、移乗について、病棟での「しているADL」をFIMの基準にしたがって評価し、自立(FIM6,7点)と非自立(FIM4,5点)の2段階に分類した。FBSの評価はBergらの方法に準じ、訓練室で施行した。分析方法としては、まずADL動作ごとに対象を自立群と非自立群に分類した後、2群のFBS得点をt検定を用いて群間比較した。次に各動作における2群の平均値の中間の得点をカットオフ値とし、適中率を求めた。統計分析にはSPSSver11.5Jを使用し、危険率5%以下で分析した。
【結果】各ADL動作別に自立群:非自立群の人数は、食事27名:11名、整容31名:5名、清拭8名:18名、更衣20名:12名、排泄22名:11名、移乗22名:11名であった。2群のFBS平均得点は、自立群:非自立群の順に食事44点:17.1点、整容41.5点:16.6点、清拭50.3点:40.9点、更衣47.8点:30.83点、排泄47.4点:28.1点、移乗47.4点:28.3点であり、いずれのADL動作においても自立群が有意に高い値を示した。この結果から算出した各ADL動作のカットオフ値で求めた適中率は、食事87.8%、整容81.5%、清拭74.9%、更衣87.6%、排泄94.8%、移乗94.9%であった。
【考察】以上の結果より、回復期脳卒中患者のADL自立度はバランス能力との関連が強く、FBSはADL自立度を予測する上でも有用な検査であることが示唆された。今後は症例数を増やし、本予測モデルの妥当性について検討していくとともに、高次脳機能の障害度によるADL動作能力低下の影響を明らかにしていく必要がある。