理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 250
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神経系理学療法
左被殻出血後の重度右片麻痺に対する課題志向型アプローチの経験
*佐藤 涼子桒原 慶太廣瀬 隆一松永 篤彦
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抄録

【はじめに】課題志向型アプローチは患者自身の固有感覚情報(つまり身体内部の情報)だけでなく、ある実際の環境下での課題(身体外部の情報)を提示しながら行う治療法であり、中枢神経疾患に対する理学療法の一つとして応用されている。今回、重度の運動機能障害と感覚機能障害を呈した右片麻痺患者に対して、発症早期から課題志向型に重点を置いたアプローチを導入し、良好な改善が得られたので報告する。
【症例紹介】76歳、男性。2005年6月に左被殻出血(CTgradeIII)による右片麻痺を呈し、保存的治療が進められた。理学療法初期評価時(発症後6日目)の意識状態は清明であるが、皮質下性失語を呈しており従命は不確実であった。同時期の運動機能はBrunnstrom stage (Br.stage)で上肢III、手指IVおよび下肢III、感覚機能は右上下肢ともに重度な深部感覚の障害を認めた。また、基本動作は起居動作と端坐位保持は自立しており、日常生活自立表の運動項目(Motor FIM)は13点であった。
【治療内容と経過】理学療法開始7日目(発症後13日目 )より、課題志向型アプローチを導入した。この時点ではBr.stageの変化はなく、Motor FIMは35点と改善していた。複雑な従命が困難であり感覚障害が重度である点を考慮し、前腕部の支持基底面を確保したうえで机上のものを把持するなどの単純な課題を設定した。特に、随意性の高い手指機能を使うことに意識を向けながら近位筋の筋緊張を高め、上肢の空間での保持能力を促した。右下肢に対しては、膝を伸展位に固定する簡易的膝装具を装着し、実際の歩行動作という課題のなかで抗重力筋の収縮を意識させることで荷重時の支持性を促した。発症後4週目には右上肢の分離動作と空間での保持が可能となったことに着目し、実際の更衣動作と食事動作を課題に取り入れ、病棟での実践も強化した。また、右下肢は膝の支持性向上に即時に対応して短下肢装具に移行させ、病棟内の移動手段として実践させた。発症後7週目には右手での書字と箸の使用の実用レベルとなり、移動能力は短下肢装具装着による屋外歩行が自立し、Motor FIMは84点へと改善し退院した。さらに、退院後の発症後12週目では短下肢装具なしでの屋外歩行が可能となり、Motor FIMは91点となった。
【考察】本症例は発症後約3週間に及ぶ期間において重度な上下肢麻痺と感覚障害が残存したにもかかわらず、発症後7週目には上下肢ともに実用的レベルに到達するという短期間で著明な改善を示した。脳出血による脳機能のダメージが回復したことに加えて、運動療法プログラムの中に日常生活に即した課題を積極的に取り入れたこと、さらには可能となった動作を即時に病棟生活の中で実践し、永続的に学習を促したことが本症例の機能改善に大きく寄与したと考えられた。

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© 2006 日本理学療法士協会
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