理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 148
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骨・関節系理学療法
大腿骨頚部骨折患者の術後の痛みが運動認知と運動パフォーマンスに与える影響について
*佐々木 雄一西尾 幸敏
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抄録

【目的】大腿骨頚部骨折患者で術後の痛みを訴えて、跛行を示される場合は多い。立位での移動動作のパフォーマンスに与える影響は大きいと考えられている。ここではAuto-estimatics(オートエスティマティクス、以下AEと略す)という評価法を使って、この痛みが跨ぎ動作における運動認知結果や運動パフォーマンスにどの様な影響を与えているかを歩行開始後4週間にわたって調べた。
【方法】今回は「立位の被験者の床上に置かれたテープを両足で跨ぐ」という運動課題でAE検査を実施した。まずテープを両足で跨げると思う一番遠い距離を見積もってもらい、次に実際にその距離に置いたテープを跨いでもらった。対象者は、大腿骨頚部骨折後に手術を受けた12名で、最初から痛みのない「痛みなし群」、最初痛かったが途中で痛みの消えた「最初痛かった群」、ずっと痛みが取れなかった「ずっと痛かった群」の3群に分けた。訓練前後に健肢から跨ぐ場合(患肢を支持足として使用)と患肢から跨ぐ場合(患肢を振出足としてして使用)の実際の跨ぎ距離と自分の見積もり通りに跨げたかという課題の成功率を記録した。記録された各データの1週間毎の平均値を4週目まで算出し、3群間で多重比較(Tukey’s HSD test)によって比較した。
【結果】成功率は、患肢を支持足とした場合では3群間に4週間を通して統計学的有意差はみられなかった。しかし患肢を振出足とした場合では、1週目のみに「痛みなし群」に比べ他の2群は優位に低値を示した。(P<0.05) 実際の跨ぎ距離は、「痛みなし群」に比べ「最初痛かった群」だけが、最初の1週間のみ支持足としても振出足としても優位に低値を示した。(P<0.05)
【考察】成功率は身体が思い通りに動いているかという身体認知を知るための目安となる。統計的には最初の1週間だけ、患肢を振出足として使った場合に、痛みの影響で思い通りの結果が出せなかったと考えられる。患肢を支持足に比べて振出足として使う場合、足を引き上げ、狙い通りにリーチし、着地後更に重心を移動しながら再び全体重を支えるという過程がある。痛みは重心を移動したときの荷重時より、下肢を引き上げ、リーチするために筋肉が収縮するときにより影響しているのかもしれない。運動パフォーマンスを表す実際の跨ぎ距離は、「ずっと痛い群」と他の2群の間には有意な差はみられず、痛みの影響があるとは断言できない。筋力低下、その他の要因も考慮していく必要があるだろう。
【まとめ】臨床的には痛みの影響は跛行などに表れている。しかし統計的には歩行開始後1週間目に、患肢を振出足とした場合の課題成功率(身体が思い通りに動いているかどうかの運動認知に関係する)のみに影響が見られた。2週目以降には影響は見られない。運動パフォーマンスは4週間を通じて痛みの影響があったとは言いにくい。他の因子による影響を考慮する必要があるだろう。

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© 2006 日本理学療法士協会
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