抄録
【目的】 膝関節周囲筋の筋力を適正に保つことは、日常生活やスポーツ活動で有用と考える。近年、膝前十字靭帯(ACL)損傷の予防のために膝関節屈曲筋であるハムストリングの筋力を向上させることの必要性が指摘されている。Russian Hamstringは、ハムストリングの筋力強化を行うエクササイズである。本研究はこれをRussian Hamstring Test(RHT)として改良し、ハンドヘルドダイナモメータで計測したハムストリングの筋力との関係を明らかにすることを目的とする。
【方法】 対象は運動部に所属する男子学生(MA群)、運動部に所属しない男子学生(MC群)、運動部に所属する女子学生(FA群)、運動部に所属しない女子学生(FC群)各11名の計44名である。ハムストリングの筋力の測定は、Power Track 2(J Tech Medical Co.)を用い、腹臥位で股関節伸展0°の肢位で、膝関節屈曲80°、60°、30°における最大等尺性筋力(N/kg)を測定した。RHTは、膝関節屈曲90°の膝立ち位で測定者が足部を固定した状態から身体を前方に倒していき、体幹の傾斜角度を算出する。骨盤と下肢に専用の角度測定装置を装着し角度を記録した。最大安定傾斜角度は、股関節伸展0°を保持しながら身体を前方に倒し、2秒間静止できた限界の位置を求めた。また、筋持久力として、身体を10°前方に倒し、胸の前で体重の10%の負荷を抱え込んだ姿勢を維持できる最大時間を計測した。
【結果】 ハムストリングの筋力はすべての群において屈曲角度が浅くなるほど大きくなる傾向にあり、各群間の比較ではMA群>MC群>FA群>FC群の順に大きかった。最大安定傾斜角度は、MA群36.0±7.9°、MC群31.0±7.6°、FA群26.6±8.9° 、FC群16.5±4.2°となり、これは膝関節屈曲筋力の発揮順と一致した。さらに、最大安定傾斜角度は、最大等尺性筋力との間で有意な相関が認められた(p<0.05)。筋持久力はMA群とMC群では有意な差は認められなかったが、FA群とFC群の間には有意な差が認められた(p<0.05)。また、男女間の比較においては女性における持久時間が男性と比較して有意に短いことが示された(p<0.05)。
【考察】 RHTは、ダイナモメータによる測定値と有意な相関を示し、ハムストリングスのテストとしての有効性が示された。今回の結果では、女性よりも男性のほうが、また運動習慣のない群よりも習慣のある群のほうが、RHTの結果が優れているということが示された。特に女性においては、FA群においてもハムストリングの筋力および筋持久力が低いことがわかり、これはACL損傷が女性に好発しているという事実と関連するかもしれない。今後、RHTを用いて女性におけるハムストリングの筋力強化の推移を検討していきたい。