抄録
【目的】
徒手筋力検査法は器具を使用せず簡便に実施できるなど実用的で有効な方法であるが各段階における筋活動や,実際に段階と筋活動の関係を検討した研究は少ない.そこで,体幹屈曲の筋力検査の段階3から5の間の各負荷設定で腹直筋がどの程度の筋活動を示すのか,その筋活動量を筋電図を用いて明確にし,段階付けの妥当性について検討した.
【対象と方法】
対象は体幹に整形外科的,神経外科的疾患の既往のない健常人30名で年齢21.9±2.4,身長166.7±7.8,体重59.6±10.5であった.対象者には事前に研究の目的・内容を説明し、研究参加への同意を得た.測定方法は段階3から段階5の腹直筋の筋活動をNORAXON社製マイオシステム1200筋電図計測・分析装置を使用し測定した.各段階の肢位で肩甲骨下角が台を離れる程度を被検者自身が分かるように頭上に棒を設置し指標にして体幹を屈曲し,動作が安定した状態で3秒間保持させたときの筋活動量を測定した.さらに得られたデータを正規化するため体重の10%の重りを両手で頭上に保持させ,体幹を屈曲させる課題を行った.測定の順番はランダム化した.統計処理は一元配置分散分析および多重比較検定を用いた.
【結果】
一元配置分析の結果、腹直筋の筋活動は段階5の肢位で最も高く,段階3の肢位で最も低い値を示し有意差が得られた(p<0.01).多重比較検定の結果,段階4よりも段階3の方が低い値を示し,有意差が見られた.段階5よりも段階 4の方が低い値を示し,有意差が見られた(p<0.01).
【考察】
体幹屈曲の段階3~5においては上肢の位置によって段階が分けられている.段階5では両手を頭の後ろで組み合わせて行うため両上肢の重量が抵抗の役割を果たしており,段階4では胸の上に両腕を交差するため両上肢が頭上に位置する段階5に比較して腕の重みによるモーメントは減少すると考えられる.さらに段階3では両上肢を体前面の上で完全伸展位に置いて両腕の重量を支点に近づけることによりモーメントを減少する効果を持つと考えられる.また筋力検査法によると身体を前におりこむことが重要であるとの記載があり,これは胸部,腰部にわたる多数の因子を一定にする役割を持つと考えられる.今回は肩甲骨が台を離れる程度を対象者自身が分かるようにしたためこれらの因子を一定にすることができたと考えられる。つまり新・徒手筋力検査法に定められている方法を厳密に行うことができたと考えられる.今回徒手筋力検査の体幹屈曲を著者の定める方法を厳密に取り,筋電図学的に考察した結果,段階ごとに同一筋に違う負荷を与えているという結果が得られ,段階付けの妥当性が高いと考えられた.