抄録
【はじめに】 身体機能を考える際、全身的な身体の繋がりを考慮しなければならない。また頚部から運動連鎖的な身体機能について考えると、頚部の運動を行うことによって坐位姿勢の変化をよく観察する。諸家により腸腰筋への刺激を行うことで坐位姿勢が変化するとも言われている。そこで今回、上位頚椎・胸椎の運動でも坐位姿勢が変化するのではないかと予測し、腸腰筋ex.を含め坐圧中心にどのような影響を及ぼすか検討し、若干の知見を得たので考察を交え報告する。
【対象と方法】 本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人21名(男性12名・女性9名;平均年齢26.4±3.52歳)を対象とした。以下のA~Cの3つの運動を端坐位にて行ってもらい、運動前後の坐圧中心の前後方向成分を計測した。尚、順序などの影響を最小限にとどめる為、A・B・Cとも別々の日にランダムに行った。A:上位頚椎の屈曲・伸展運動、B:胸椎の屈曲・伸展運動、C:股関節屈曲運動。坐圧中心の測定方法は、体重計を前後に2つ置き、その上に四点で支持された板を置いた。下腿が床面に対し垂直となり、下腿後面が椅子に触れる程度に指示し板上に端坐位をとってもらった。その前後の体重計の後方の値を取り、体重比で前後方向成分の坐圧中心とした。またAの運動は、環椎後頭関節に検者の母指と示指を当て自動的な伸展運動・屈曲運動を行わせた。その際に他の椎体の動きは徒手的に制限した。Bは、胸椎後面に手を当て、胸椎部から動くように口頭指示・徒手的誘導を行った。Cは、骨盤を前傾位に保ったまま両大腿を軽く浮かせる程度の股関節屈曲運動を行った。各運動は20回づつ行った。以上の方法で得た坐圧中心のデータをWilcoxon順位和検定にて比較した。
【結果】 Cのみ有意差を示した。(P=0.023)
【考察】 Cの運動によって坐圧中心は変化することが示された。Cの運動は腸腰筋ex.であり諸家により腸腰筋を刺激することで坐位姿勢が変化すると言われている。本研究の結果からも股関節の運動により坐圧中心が前方化する傾向が認められ、これらを支持する結果となった。今回の研究動機であった他の部位、つまり頚椎や胸椎の運動による圧中心の変化に一定傾向は認められなかった。坐位姿勢では坐骨を支持基盤とした脊柱の運動において、その坐骨を動かすことのできる股関節の運動が多大に関係することを意味しているものと考えられた。しかし、胸椎や頚椎の運動では他のバイアスの影響があり、坐圧中心には一定傾向の影響を与えにくいものと考えられた。したがって今回の研究では当初予測した結果が得られなかったものと考えている。
【まとめ】 「ヒトの動き」として考えた際に、運動により多様な変化をもたらすとの認識に立ったデータの取り方を考慮しなければならないと考えさせられた。次回はこの点に留意し研究を進めていきたい。