理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 318
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骨・関節系理学療法
術後1年以上経過した乳癌患者の肩関節機能
*川崎 桂子畑 幸彦高橋 友明青木 幹昌唐澤 達典矢貴 秀雄
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キーワード: 乳癌, 肩関節, 自覚症状
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抄録

【はじめに】
 第39回の本学会で,乳癌術後の6ヶ月間の経過観察で,術側の皮膚表面温度は術前に戻ったが,肩関節屈曲,外転および90°外転位外旋方向の肩関節可動域制限が残存したことを報告した.
 今回われわれは,術後1年以上の経過で肩関節機能障害が残存しているのかを調べる目的で,乳癌術後1年以上経過した症例に対して,筋力測定,肩関節可動域測定および質問票による自覚症状の調査を行ったので報告する.
【対象】
 当院において乳癌に対して手術療法を施行されて術後1年以上経過した30例30肩を対象とした.全て女性で,検査時年齢は平均53.4歳(31~79歳)で,術後経過期間は平均23ヶ月(15~47ヶ月)であった.術式は非定型的乳房切除術20例20肩,乳房温存術8例8肩,一期的乳房再建術2例2肩であった.
【方法】
 筋力測定は,トルクマシン(BIODEX)を用いて屈曲・伸展方向と肩90°外転位内旋・外旋方向に角速度60°/secで測定し,ピークトルク体重比を算出した.
 肩関節可動域の測定は,屈曲,伸展,外転,および90°外転位内旋・外旋の角度を測定した.
 自覚症状は質問票を用いて調査し,日常生活で困っていること,肩こりの有無,腕のだるさの有無,および胸の突っ張り感の有無の4つの質問項目について4段階で自己記入してもらった.
筋力と関節可動域については,術側と非術側の間で有意差検定を行った.
【結果】
 筋力は,屈曲方向は術側44.4%・非術側45.3%,伸展方向は術側46.7%・非術側49.0%,内旋方向は術側27.6%・非術側28.7%,外旋方向は術側27.3%・非術側26.8%で,すべての筋力において有意差を認めなかった.
 肩関節可動域は,屈曲は術側146.8°・非術側148.7°,伸展は術側32.7°・非術側33.2°,外転は術側126.7°・非術側133.2°,90°外転位内旋は術側47.6°・非術側49.0°,90°外転位外旋は術側80.5°・非術側82.3°で,すべての角度において有意差を認めなかった.
 自覚症状は,質問票に「ある」と回答した項目についてみると,肩こりは26肩に,腕のだるさの残存を12肩に,前胸部の突っ張り感の残存を24肩に認めた.日常生活上の障害を認める症例はなかった.
【考察】
 今回の結果より,肩周囲筋力および関節可動域は,術後1年以上の経過で非術側とほぼ同じレベルに改善しており,術後6ヶ月で残存した肩関節機能障害は術後1年以上の経過で改善されることがわかった.
 自覚症状では,肩こりは重症のものほど術前からのものが多かったが,腕のだるさと前胸部の突っ張り感については,前者は手術による腋窩リンパ節の郭清が,後者は術後の創部瘢痕が原因しているのではないかと推測された.
 今後は自覚症状の原因を分析するとともに,それに対応した理学療法内容の再検討が必要であると思われた.

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© 2006 日本理学療法士協会
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