抄録
【目的】我々は膝前十字靭帯(ACL)損傷予防のために、新しい運動療法プログラムの開発を進めている。ACL損傷予防策の一つとしてジャンプ着地動作を改善する必要がある。このための運動療法プログラムがジャンプ能力にもよい影響を与えるなら、スポーツ現場でのプログラム導入が容易になると考える。本研究はジャンプ能力と運動療法プログラムで用いている身体運動機能の間に関連が強い項目を明らかにする目的で行った。
【方法】対象は本研究の趣旨に賛同を得られたH県下の高校女子バスケットボール部員100名である。いずれも下肢に特別な疾患はなかった。測定はH大学の倫理委員会で承認された「ACL損傷予防研究」のプロトコルに沿って実施された。ジャンプ能力の指標として、最大跳躍高、片脚最大跳躍高、立ち三段跳びを測定した。最大跳躍高の検査項目は、VERTICAL JUMP METER JUMP-MD(竹井機器工業株)を用いて測定した。運動療法プログラムの身体運動機能の評価として、ロシアンハムストリング、片脚スクワット、閉眼立位を行った。ロシアンハムストリングは膝立ち位で下腿を固定した姿勢を開始肢位とし、大腿部と体幹を一直線に保った姿勢で体幹を前傾させ、保持できる最大安定傾斜角度を測定した。片脚スクワットは、最大実施回数を記録した。閉眼立位は対象がバランスディスク(タケマエ株)上で行い、両脚立位、右片脚立位、左片脚立位の各条件下で測定した。ジャンプ能力と身体運動機能の関係についてはスピアマンの順位相関係数を用いて検定した。危険率5%未満を有意とした。
【結果】最大跳躍高の平均±SDは、両脚37.3±4.6cm、右脚22.4±2.8cm、左脚23.1±3.2cmだった。立ち三段跳びは、552.6±35.7cmだった。両脚の最大跳躍高と各身体運動機能の間に有意な相関はなかった。片脚最大跳躍高と片脚スクワット、ロシアンハムストリングスの間に有意な相関が認められた。立ち三段跳びと閉眼立位の間に有意な相関が認められた。
【考察】今回の結果から、運動療法プログラムの一つであるロシアンハムストリングを行うことでACL損傷を予防すると同時に、片脚最大跳躍高の向上が期待される。同様に、閉眼立位などのバランス向上エクササイズを行うことで、立ち三段跳びの能力が向上する可能性があることが確かめられた。このように、ジャンプ能力に関連する身体運動機能は、ジャンプの種類により異なると考えられた。したがって、向上させたいジャンプの種類により運動療法プログラムの内容を決定していく必要があるかもしれない。
【まとめ】片脚最大跳躍高は、身体運動機能の筋力に関する項目と有意に相関した。立ち三段跳びは、身体運動機能のバランスに関する項目と有意に相関した。本研究ではACL損傷予防の運動療法プログラムがジャンプ能力の向上に役立つ可能性が示され、現場への導入を促進する裏づけになると考えた。