抄録
【はじめに】近年、膝外反位いわゆるknee-inがノンコンタクトでの膝前十字靭帯(ACL)損傷を起こす危険因子であるという報告が多く見られる。膝外反位になる要因として、膝関節だけでなく股関節の動的安定性が乏しいとの報告もあり、ジャンプ着地時における膝外反角度と筋活動の関連性を明らかにすることは、ACL損傷予防につながるものと考える。
【目的】片脚着地時の膝外反角度および下肢筋群の筋活動を測定し、それらの関連性を検討することを目的とした。
【対象と方法】対象は下肢疾患の既往のない健常人34名(男性17名、女性17名)身長165.6±8.2cm、体重60.1±10.9kg、年齢27.1±2.9歳とした。計測動作は高さ30cmの台からの片脚着地とした。前方よりCCDカメラで動作を記録し、動作解析装置(Dipp-Motion XD)にて、着地後の最大膝外反角度を測定した。ACL損傷者の着地時膝平均外反角度が9度であったというHewettらの報告を基に、我々は簡易的に10度を基準とし着地後の最大膝外反角度において、10度以上の群をA群(21名)、10度未満の群をB群(13名)とし、この2群間における筋活動を比較した。筋活動の測定はNoraxon社製MyoVideoとMyoSystem1400を同期させて行った。導出筋は中殿筋(Me)、大殿筋(Ma)、内側広筋(VM)、大腿直筋(RF)の4筋とし、電極中心距離40mmにて筋線維に並行となるよう電極を貼付した。各筋の活動量の指標には筋電図積分値を用い、最大随意収縮(MVC)で正規化し%MVCとした。MVCの測定は徒手抵抗下で最大の筋放電量を示した瞬間の前後0.5sec(合計1.0sec)とした。実験試技における筋活動の測定区間は、最大膝外反時の前後0.1sec(合計0.2sec)とした。また統計学的処理は、両群間の値をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。
【結果】2回の試技における各筋の平均%MVCは、A群ではMe35.7%,Ma28.0%,VM109.3%,RF40.3%、B群ではMe66.8%,Ma44.8%,VM85.8%,RF82.3%であった。A群はB群に対し、Meにおいて有意に低値を示した(p<0.01)。
【考察】本研究の結果より、片脚着地時の膝外反角度が大きいA群のMeで、筋活動低下が確認され、膝外反角度の増大とMeの筋活動低下には関連性があることが示唆された。したがって、ACL損傷の危険因子とされるknee-inを予防する意味でMeの強化は重要であると思われる。今後は殿筋群を中心としたトレーニングが、下肢アライメントに与える影響について検討したい。