抄録
【目的】一般的に半月板損傷は急性外傷での発生が多いとされているが、臨床上、若年者においても慢性外傷による半月板損傷の発生を多く経験する。慢性外傷は主に動的アライメントの不良に起因しており、外傷発生や術後の後遺症を予防するためにも動作指導は重要である。今回、内側半月板(以下、MM)損傷と外側半月板(以下、LM)損傷の発生機序を調べ、年齢による違いを検討した。
【対象】1986年から2004年に関節鏡視下で半月板損傷を認めた433例459膝(MM損傷272膝、LM損傷187膝;discoidを除く)を対象とした。年齢34.1±14.1歳、身長166.7±9.2cm、体重63.0±12.1kg(平均±標準偏差)であった。
【方法】カルテの記述より、膝半月板損傷の発生機序を1~数回の明らかな外力によって引き起こされた急性外傷とその他の慢性外傷に分類した。受傷時の年齢を30歳未満(a群)、30歳以上50歳未満(b群)、50歳以上(c群)に分け、MM損傷とLM損傷それぞれの3群の発生件数を調査した。各年齢階層と発生機序の関係をχ2検定を用いて検討し、危険率5%未満を有意とした。
【結果】MM損傷膝のうち、急性外傷は、a群で45件、b群で72件、c群で6件、慢性外傷は、a群で30件、b群で105件、c群で12件であった。LM損傷膝のうち、急性外傷は、a群で73件、b群で38件、c群で0件、慢性外傷は、a群で46件、b群で29件、c群で1件であった。χ2検定の結果、MM損傷に関して年齢階層が進むにつれて慢性外傷が有意に増加した(p<0.05)。一方、LM損傷では年齢階層間で有意差を認めなかった(p=0.396)。急性外傷が多い傾向にあるa群においてもMM損傷の40%、LM損傷の39%は慢性外傷による発生であった。
【考察】MM損傷は加齢に伴い慢性外傷による発生割合が高くなっていた。歩行の踵接地では、強い床反力と膝関節の内反モーメントが発生する。加齢による歩隔の増大と側方動揺性の増加によってこの力が増強し、日常の歩行で頻回に力が加わることでMM損傷が発生したと考えられた。LM損傷の発生機序は加齢に影響されなかった。しかし、MM損傷もLM損傷も30歳未満の約40%は慢性外傷による発生であり、比較的若年層にあっても慢性外傷による半月板損傷の発生は少なくなかった。慢性外傷の発生は、動的アライメントの不良によるものが多く、保存療法や術後後療法において動作指導が必要と考えられた。
【まとめ】半月板損傷膝459膝に対して急性外傷と慢性外傷の発生件数を年齢階層毎に調べた。MM損傷は年齢階層が進むにつれて慢性外傷の発生割合が高くなり、LM損傷は、年齢階層間で差を認めなかった。いずれの損傷も30歳未満であっても約40%が慢性外傷による発生であった。