抄録
【目的】高齢者の肺炎における問題点は高い死亡率と臥床による身体機能の低下であり、廃用性障害を予防し、ADL能力低下を最小限にとどめることが求められる。今回我々は、急性肺炎にて当院に入院した高齢患者における理学療法(PT)処方の傾向を調査するとともに、入院前・入院中における患者のADL能力低下を来す因子についての検討を目的とした。
【方法】2004年4月から2005年3月までの1年間に肺炎にて当院に入院した70歳以上の患者532名(平均84.9±7.4歳、男性310名、女性220名、平均在院日数:31.3±28.7日、自宅退院率:67.1%)をPT処方群(PT群):207名、未処方群(N群):325名の2群に分け、在院日数、入院時のADL能力、退院時ADL能力(死亡を含む)を患者カルテより後方視的に調査した。入院時ならびに退院時のADL能力は4段階に区分した(1:ADL自立、2:ADL介助、3:寝たきり、4:死亡)。退院時においてADL能力低下を認めたものについては、入院前ならびに入院期間中のエピソードをもとにADL能力低下を来す要因となった事項について調査した。
【結果】入院時ADL能力の内訳は、PT群では1:69名(33.3%)、2:101名(48.8%)、3:37名(17.9%)、N群では1:128名(39.4%)、2:86名(26.5%)、3:111名(34.2%)と、2群間に有意差を認めた(P<0.05)。退院時ADL能力の内訳は、PT群では1:41名(19.8%)、2:96名(46.4%)、3:36名(17.4%)、4:34名(死亡率16.4%)、N群では1:100名(30.8%)、2:68名(20.9%)、3:66名(20.3%)、4:91名(死亡率28.0%)と、2群間に有意差を認めた(P<0.05)。入院期間中のADL能力の低下については、PT群では1→2:18名(8.7%)、2→3:7名(3.4%)、N群では1→2:11名(3.4%)、2→3:3名(0.9%)とPT群においてADL低下を来した患者が多い傾向を認めた。在院日数はPT群:43.2±35.5日、N群:23.8±20.2日と、N群が有意に短かった (P<0.05)。また、PT群にて入院からPT処方までは平均9.2±11.2日であった。
入院期間中にADL能力低下を来したPT群25名、N群14名について検討を行った。PT群では85歳以上72%、脳卒中後遺症あり44%、せん妄・認知症進行24%であり、N群では85歳以上50%、脳卒中後遺症あり50%、せん妄・認知症進行21.4%であった。
【考察】当院は救命救急センターを有する急性期病院であり在院日数を短く維持する必要がある。このため高齢肺炎患者の約4割にPTが処方されADL能力の低下予防・改善に努めているが、入院時のADLに介助を要するものはADLが低下し在院日数が長期化する傾向が示唆された。特に85歳以上の高齢者、脳卒中後遺症を有するもの、認知機能面の問題を呈するものでは、ADL低下を来す可能性が高いため早期にPT処方がされるべきであると考えられた。今後はADL能力の変化を詳細に検討し、肺炎の重症度、PTの内容や頻度、社会的背景なども含め多角的に検討する必要があると思われる。