理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 541
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内部障害系理学療法
胸部および胸腹部大動脈瘤に対する待期的人工血管置換術後症例の術後経過
*西村 真人谷野 晶子山本 健史古田 宏前 宏樹松尾 善美東上 震一森 俊文下村 裕
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抄録
【目的】大血管置換術の主な適応症例である大動脈瘤の待期的手術と急性大動脈解離や大動脈瘤破裂などの緊急手術では、病態において大きな差異があり、術後経過を同様に考えることはできない。今回我々は、胸部・胸腹部大動脈瘤に対する待期的手術症例の術後経過について調査し、検討を加えたので報告する。
【方法】2003年1月1日から2004年12月31日の間に当院心臓血管外科において待期的に大血管置換術を行った胸部・胸腹部大動脈瘤症例のうち、術前に著しい運動障害のない37名(男性26名、女性11名、平均年齢67.9歳)である。術後の離床プログラムは、術翌日は端坐位、第2病日より歩行を開始し、段階的に距離を延長して第5病日に病棟内歩行(200m)を行う当院で作成したプログラムを使用した。病棟内歩行が第7病日以内で獲得できたものを早期例、第8病日以降になったものを遅延例と分類し、術後歩行開始・病棟歩行獲得期間・術後入院期間、遅延理由を後方視的に調査した。また、症例の年齢、手術時間、麻酔時間、挿管時間、人工心肺時間、術後運動障害の有無と術後入院期間を早期群と遅延群の2群間で比較検討した。統計学的処理は、ANOVA・Kruskal-Wallis検定・χ2検定により統計処理を行い、危険率5%未満を以って有意とした。
【結果】早期例23名、遅延例14名であった。術後歩行開始は、早期群2.3日、遅延群6.5日であった。病棟内歩行獲得平均日数は、早期群4.3日、遅延群は病棟内歩行を入院中に獲得できなかった2名を除き13.0日であった。遅延理由は、術後不全対麻痺3名、術前からの反回神経麻痺による抜管困難2名、せん妄2名、術前からの片麻痺一時的増悪、術前長期臥床による易疲労・創部痛・腰痛・頻脈・吐気幻暈・抑うつ各1名であった。早期群と遅延群の比較では、遅延群において麻酔時間、挿管時間、術後入院期間が有意に長く、また術後運動障害を有しているものが多かった。
【考察】本研究において、胸部・胸腹部大動脈瘤の待期的手術後の病棟内歩行獲得を阻害する因子としては運動障害(4名)が最も多かった。うち3名は、術後不全対麻痺を発生した症例であった。待期的手術では、遅延群において麻酔時間や挿管時間が長いものの、緊急手術症例を含む報告と異なり、残存解離の安定化を待つためや呼吸不全、腎不全で長期間安静を強いられることがなく、これらが、病棟内歩行獲得遅延の因子にはならなかった。術後運動障害を有した症例では、術後入院期間が遅延群の中でも平均109.3日と長かった。入院期のリハビリテーションを遅滞無く行うためには、術後運動障害を有した症例をできるだけ早期に離床させ、二次障害を予防し、可能な限りADLを再獲得することが重要である。
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© 2006 日本理学療法士協会
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