理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 548
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内部障害系理学療法
加圧トレーニングの重症患者への応用
*坂上 詞子中島 敏明飯田 陽子森田 敏宏高野 治人永井 良三広瀬 健佐藤 義昭
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抄録

【目的】医学の進歩により重症な患者が助かるケースが多くなってきた。今後ますます加速する高齢社会において、高齢者の転倒、寝たきりが大きな問題となることが予測され、新たな理学療法(以下PT)の重要性が示唆される。
近年、スポーツ分野では筋力増強の有用な方法としてすでに確立されている加圧トレーニングは、専用の加圧ベルトで腕や大腿に適切な圧力をかけることで血流を適度に制限しながら、短時間、低負荷でのトレーニングを行う方法である。これにより低負荷の運動で大きなトレーニング効果が得られることが実証されている。一般的に筋力増強、筋肥大を得るためには、ある程度の運動強度と成長ホルモン(以下GH)分泌刺激作用の関与が必要である。他方、GHは心疾患において心筋収縮増強、心筋構築促進などの作用があり、現在は心不全の治療薬としても使われ始めている。したがって、筋力トレーニングを効果的に行ない、心疾患の治療効果を得るにはGHを有意に分泌させる必要がある。加圧トレーニングは、虚血、低酸素下での運動において、筋線維、特に速筋線維の動員による筋肥大が起こるとともに、GH分泌が亢進することがわかっている。そのため加圧トレーニングは、心疾患のみならず、高齢者の長期臥床による筋萎縮ならびにdeconditioning防止に有用である可能性がある。
今回CCU患者の重症例のPTに加圧トレーニングを用いた症例を経験し、起居移動動作能力の向上を認めたので報告する。

【症例】59歳男性。2001年より狭心症指摘され、加療していた。2004年7月にCAGにて3枝病変が見られ、CABG適応となるも肺炎となり、心不全増悪し、PCI施行した。その後呼吸不全の状態に陥り、気管切開し、呼吸器管理が行なわれた。挿管期間が3ヶ月以上となったため、disuse改善目的に、PTにて加圧トレーニングを11月24日より開始した。プログラムとしては、週3回、上肢、下肢をそれぞれ加圧圧100mmHgで加圧し、肩、肘、股、膝関節にて10回1セットとし、3セットを自動運動より行った。運動中の血中GH濃度を測定したところ、運動前後で0.92ng/mlから7.28ng/mlと著明な増加を認めた。MMTは開始時上下肢
3から4レベルであった。11月29日呼吸器離脱、30日に端座位、12月6日に立位、14日より歩行可能となり、2005年2月4日徒歩にて自宅退院となった。退院時MMTは上下肢とも4レベルまで改善を認めた。なお、加圧トレーニング中には胸部症状などの異常所見は認められなかった。

【まとめ】加圧トレーニングをCCU重症患者に施行した。加圧トレーニングはCCU患者においても早期より施行でき、安全な方法であるとともに、筋力増強効果も期待できる。今後deconditioning防止効果、さらには重症患者の早期退院につながるか否か、また、心疾患以外の疾患に対する加圧トレーニングの効果などを検討する予定である。

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© 2006 日本理学療法士協会
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