理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1135
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生活環境支援系理学療法
背もたれと骨盤の位置関係が坐骨部荷重ピークと位置のずれ幅に与える影響
*小原 謙一江口 淳子渡邉 進
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抄録
【目的】
 脳卒中片麻痺患者や脊髄損傷患者などの下肢に何らかの障害を持つ人にとって,車椅子は移動手段の一つであり,休息する椅子の役割もしている.最近では,「寝たきり」を防ぐために長時間車椅子上に座らされている「座らせきり」が見られるが,その多くが背もたれに過度にもたれ,ずり下がった状態のまま自ら修正できないでいる.その際,坐骨部には前方へのずれ応力が生じていると推測される.本研究の目的は,背もたれと骨盤の位置関係が坐骨部周辺の荷重ピーク値と背もたれからの距離(荷重ピーク位置)のずれ幅に与える影響を明らかにし,力学的に検討することである.
【方法】
 対象は,下肢・体幹に疾患のない健常成人男性11名(年齢:22.4±2.3歳,身長:172.0±4.2cm,体重:66.0±8.5kg)であった.殿部が背もたれ部に軽く触れるように椅子(座面高40cm,座奥行40cm,背もたれ高35cm)に座り,その時の大転子位置を基準位置とした.フィルム状のセンサシートを椅子の上に設置し,基準位置から前方へ0,5,10cmでの3条件にて基本座位(股・膝関節90度屈曲位)および背もたれにもたれた安楽座位の荷重ピーク値とその位置を計測した.荷重ピーク値および位置の計測には,圧力分布測定システム(NITTA社製BIG-MAT)を使用した.荷重ピーク値は,体格の影響を考慮して体重で除して正規化した.また,各位置における安楽座位での荷重ピーク位置のずれ幅を比較するために,各位置における安楽座位での荷重ピーク位置と基本座位での荷重ピーク位置との差を求めた.背もたれの影響を調べるために各大転子位置における荷重ピーク値および位置を基本座位と安楽座位間で比較した.さらに,背もたれからの距離の影響を調べるために安楽座位時の荷重ピーク値および位置のずれ幅を各大転子位置間で比較した.統計処理にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,危険率5%未満をもって有意とした.
【結果・考察】
各大転子位置における基本座位と安楽座位間での荷重ピーク値の比較では,5,10cmで安楽座位が有意に低値を示した.荷重ピーク位置では0,5cmで安楽座位時に有意に前方へ移動しており,10cmでは前方へ移動する傾向であった.各大転子位置間での荷重ピーク値の比較では,0cmよりも5cmが有意に低値を示し,10cmでは低値を示す傾向にあった.荷重ピーク位置のずれ幅では,有意な差は認められなかった.背もたれにもたれることで背部との接点を支点とする後方への回転モーメントが発生し,下部体幹を前上方へ持ち上げるように働く.そのため,荷重ピーク値は減少し,殿部(坐骨部)には前方へのずれ応力が生じることで,荷重ピーク位置が前方へ移動したと考えられる.褥瘡は垂直荷重値が低くても,ずれ応力が大きい限り発生すると考えられるため,クッションなどの減圧用具と併せて背もたれとの関係も考慮すべきであろう.
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© 2006 日本理学療法士協会
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